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では、一番の問題は一体何なのか。その答えは、思いの外、簡単なものであった。男と男、そして一人の女。争いが起きない訳がない、人間は何千年も前からそれを理由に争ってきたものだ。そしてその状況を創り出すものといえば、無だ。生まれながらにして与えられている、つまりは運命ともいえる。誰もがそれを望んでいる訳ではない、これは超自然的な状況なのだ。誰が逆らうことができようか!
それならばこの状況を打破することができる一番の良策は一体何なのだろうか。その最も下劣な愚案を、僕は知っている。
窓を開けて、裕美が静かに口を開いた。
「落ち着いたから、そろそろ入ってきていいわよ」
部屋の中に目をやると、龍二は既に泣き止んでいるようだった。僕は愚案を試すには良い機会だと、グラスに入ったミルクをグイと一気に飲み干してから部屋に入った。
今にもこの世を離れてしまいそうにうつらうつらとしている龍二に、僕は猫なで声で言った。
「可愛いねー、龍二ー」
そして龍二の柔らかい髪を撫でた、その時であった。夢の世界に足を踏み入れていたはずの龍二の目がカッと見開き、僕を睨みつけると、すぐに両手をあおいで裕美を求めたのだ。裕美に抱き上げられた龍二はチラと僕を見て、そして片方の唇を上げて厭らしく笑うのだった。
「もう、龍二がせっかく眠りそうだったのに。龍一はお兄ちゃんなんだから、弟には優しくしなくちゃダメよ」
そんな裕美の言葉なんてもう耳には入ってこない。こいつは本能的に僕を敵視している。そんな龍二の姿を見て思い知らされたよ、男にとって考えて行動することの全てが愚案なのだと。だから僕も同じように片方の唇を上げて龍二に笑いかけた。そして思った、これが男の性なんだな、と。
ピンポーン、玄関のチャイムが鳴った。
「お父さんが帰ってきたのかしら。一緒に玄関まで迎えにいきましょう」
裕美はそう言って微笑んだ。そんな裕美を尻目に、僕と龍二は玄関を睨みつけていた。
◆◆◆ 完結 ◆◆◆
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