愚案

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 さて、状況を打破するにはまず状況を理解することが大事なのだ。一先ず裕美の考えは置いておくことにする。言わせるなよ、女は難しい生き物だからな。龍二は、僕よりは年が下であろう、一見しても若い。だが一番の問題なのがその若さなのだということを僕は理解していた。龍二は今も、裕美の腰にすがりつくように泣いている。男としては滑稽とも思えるそれが、女の裕美には最大限の効果をもたらす。母性本能をくすぐるというやつだ。僕も上手にくすぐってやりたいものだが、自我というものが邪魔をする。時間の流れというものはとても厄介なものだ。  だが、別に龍二の可愛さにわざわざ対抗する必要もない。大人の余裕を持って接すれば良いだけのこと。裕美が辛い時、そっと涙を拭いてやる、そして優しく抱いてやる。龍二には出来るはずもない、だから龍二の存在自体は然程問題ではないだろう。  次に、仕方がない、考えたくもないが、裕美のことを考えてみる。裕美はずるい女の性で以って、龍二と僕をその手に繋いでおきたいのだ。いっそのこと、僕のことを嫌いだとでも言って欲しいものだが、それは叶わないことだということを僕は知っていた。僕の方から何度か裕美の下を去ろうという素振りを見せたこともあるが、いつも徒労に終わる。裕美はやはりずるい女の、涙袋を今にも爆発させるかの如く膨らませて、せつなく、そして愛情に満ちた瞳で僕を見つめるのだ。そんな裕美の顔を見ると、僕は裕美をこの腕で抱きしめてしまう。男とは実に弱い生き物だ。
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