愚案

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 夜の帳がゆっくりと街に下りていく。燦燦と降る陽光がアスファルトを焼くよりも、むしろ充分に暖められた大地がひっそりと吐息を漏らすように、ほんのりと湿気を帯びていくその大気の匂いが、僕は好きだ。山と空を繋いでいる紫雲は幸福な死を連想させるが、何故だろう、僕は不思議と生を想う。天に掛けられた梯子から仏が降りてくるというのなら、新たな命の息吹を感じるのも同義なのではないのか。  僕は一人、ベランダでグラスを傾けながらそんなことを呆然と考えていた。少しばかり感傷的になり過ぎているのではとも思う。しかし、時に、自分がいかに滑稽で矮小な存在かを自覚するのも悪いことではないと、自分を無理矢理納得させた。  改めて部屋の中に横目をやると、男と女がいる。女は僕が良く知っている女で、名前は裕美。知り合って三年ではあるが、裕美という人間を知るという意味では実に濃密な三年であった。何をすれば裕美が喜ぶか、悲しませてしまうのかを熟知している。若い感情に任せて、その豊満な乳房を揉みしだいてやったことだって、今ではもうすっかり笑い話だろう。男の方はといえば、一週間前に初めてその顔を拝ませてもらったという程度で、名前は龍二と言うらしい。  男と男と女、こんな状況下であるのが問題なんだ。いつの世でもそうだろう、と達観した時に、僕は思わず笑みを零してしまった。わざわざベランダで一人感傷に浸っていたのではない、現実逃避していたことに気が付いたからだ。
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