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☆打ち切り御免──!!
俺は今、クソでかい城の前にいる。禍々しい雰囲気が、いかにも“ラスボスの城”って感じでワクワクする。
***
俺の名前はマサヨシ。
正義と書いてマサヨシだ。
ジャスティスじゃなくて悪かったな。
そのジョークは聞き飽きた。
まあ名前が名前だから、それに見合った“行動”を取らされる環境にほとほと嫌気がさして、ぶっちゃけグレた。
『マサヨシ、お前正義の味方だろ? あそこでイジメられてるやつ助けてこいよ』
『マサヨシくん、私の財布盗られちゃったみたいなの……。もちろん犯人捕まえてくれるでしょ?』
俺はテメェらの便利屋じゃねぇ!!
俺じゃなくて警察頼れよ!! 国家機関やぞ!!
そしてちょうど3ヶ月ほど前、つい魔が差して万引きをした。近所の本屋でエロ本を2冊。背徳感はあれど、なぜか罪悪感はなかった。むしろなんだかスッキリしていたんだ。
もちろんすぐに見つかって追いかけられるハメになるんだけど、逃げている時に細い路地に入ったら、何故かそこは中世風の知らない街になっていた。
それからずっと日本には戻れないでいる。
少しここで生活したけど、やっぱりちょっとだけあの日常が恋しいんだよな。
つまり、何が言いたいかって言うと、3ヶ月ほど前から俺は異世界(?)で生活を送っているのだ。
最初はものすごく戸惑ったのだが、言葉は通じるし、基本的に金よりも物々交換で成り立っているというのもあり、住むところ以外は苦労はしなかった。持ってたエロ本も行商人のおっちゃんに好評で、エロ本2冊を対価に割となんでも揃えて貰えた。
俺の順応力すごくね?
その問題の住処なのだが、この世界には魔物がいるらしく、その討伐した魔物のランクによって、それ相応の家が与えられるのだという。街の中心の掲示板にはお知らせ以外に、建物と魔物の絵(この世界に写真はないらしい)が貼ってあって、そこから選んで物件を手に入れるシステムだった。
この世界においては、俺の身体能力はずば抜けて良いらしい。低級レベルの魔物なら素手で倒せてしまった。「これなら、ちょっといい物件狙えるんじゃね?」と調子に乗った俺は、最上級レベルの魔物討伐をすることにしたのだ。
最上級、つまりは魔王討伐だ。掲示板に一際大きい張り紙がある。そこには貫禄たっぷりで凄みのあるのイケてるおじさんが描かれている。頭には2本の角、背中には蝙蝠のような翼、襟の立ったマントを羽織っている。これが魔王だろう。
街の人に聞いて回った結果、魔王を倒すと色々と手に入るらしいということが分かった。
①魔王の城(王都から遠いがめちゃめちゃデカいらしい)
②王国の宝(何かまでは分からない)
③何でも望みを一つ叶えてくれる(魔法があるため恐らく不可能なことはない)
これを知った時、魔王の城や宝よりも、“何でも”願いが叶うというところに食いついた。これで元いた世界に帰れるかもしれない、と希望を持てたのだ。
それで冒頭に戻るわけだが、俺は3ヶ月かけてようやく魔王の城までたどり着いた。道中色々な魔物を倒してきたが、目標が“魔王”であったため雑魚でしかなかった。
途中で見習い魔法使いの少年と淫魔(何故か気に入られて仲間になった)を拾ったのだが、この城に向かう前に寄った街で、
「マサヨシ、腹減った!! いい加減お前の精力食わせろ!!」
「ふざけんな! 俺はオスに興味はねぇ!!」
「お前に興味がなくても、俺にとっては死活問題なの!! いいからチ●コ出せよ!!」
「それなら俺じゃなくてもいいだろ!? キリムでも襲っとけよ!!」
「うえっ!? マサヨシさん僕を売るなんて!! 酷いですよぅ!!」
ということがあり、淫魔と魔法使いは置いてきた。
ごめんな、キリム……。
どうか、枯れないでいてくれ……。
そして俺は一人、魔王の城の前にやって来たというわけ。
大きな扉がギギギギッと耳障りな音を立てて開いた。薄暗い建物の中へ、足を踏み入れた。
城の中はビックリするほど静かだった。もっと魔物とかが侵入者を防ごうと襲ってくるものだと思っていたのだが、そういう気配どころか生き物の気配すらしない。
「……ホントに魔王がいるのか?」
呟いた声は城の中で反響する。
「やっほー」
少し大きな声を出しても、帰ってくるのは反響した自分の声だけで、それ以外に何も返ってはこなかった。
とりあえず階段を上ってみる。ラスボスは大抵最上階にいると相場は決まっている。螺旋状になった階段をひたすら登った。途中の階も一応見て回って入るが、やはり魔物一匹いなかった。
結局、最上階の立派な扉の前に来るまで、何にも遭遇しなかった。
……逆に不安になるから、雑魚ぐらいいてもいいのに。
「しつれーしまぁーす」
くすんだ赤い扉を開くと、今までの城の内装とはガラリと変わり、明るくちょっぴりファンシーな空間が広がっていた。
「うわぁ、なんか原宿っぽい……」
“原宿っぽい”という形容の仕方で伝わっただろうか。魔王の城だということを忘れてしまうほど、パステルカラーの家具やグッズが並んでいた。絨毯にはほんのりラメが混じってるし。
部屋の奥、天蓋付きのドデカいベッドの左側に、内装に見合わない大きな人型の姿があった。紫や黒を基調とした全身、襟付きの長いマント、頭には2本の角、顎からもみあげまで繋がった貫禄のある髭、見た目年齢60歳くらいのおじさんがいた。掲示板で見た魔王の絵そのままだ。ただ、体格は人間の規格の1.5倍くらいあり、思っていたより大きかった。
「お前が魔王だな!」
「……」
「俺はお前を倒しに来た! さあ、観念してこの城を俺に明け渡してもらおうか!!」
「……」
「……何か言えよ」
「……」
「ん?」
いくら声をかけても反応しないから、近付いてみる。
「これ、置き物じゃん!」
何だよ! ちょっとビビって損した!!
そりゃそうだよな! こんな貫禄たっぷりのおっちゃんが、パステルファンシーな部屋にいるわけないよな!!
ったく、紛らわしいもの置くなよ!!
八つ当たりで蹴り飛ばしてしまった。思ったより不安定に立ててあったらしく、蹴ったらそのまま後ろへ倒れてしまった。
……てか何かこれ、ブニッとリアルで生々しい感触したけど。
「グェッ!!」
倒れた魔王像の下から呻き声が聞こえた。
「……ぐえ?」
それから、何やら澄んだ声でうーうー言っている。
魔王像を少しずらして、モゾモゾと動いている塊にかかった布を捲った。
「おぉん? 金髪美少女だ……!!」
「んん……」
金髪ゆるふわロングの美少女が倒れていた。年齢は俺と変わらないか、少し下の15歳くらい。気を失っているらしい。まあ、原因は俺が倒した魔王像だけど。
よく考えたら、この城に来て初めて見た人物だな?
……じゃあ、コイツが魔王?
魔王像とは似ても似つかない風貌。角無いし、そもそも女の子だし! こんなカワイコちゃんが魔王とか、ナイナイ!
あ、目を覚ました。
わあ、綺麗な紫の瞳……。
てかまつ毛長っ……。
「……余は、腹が減った」
透き通ったテノールボイスでそう言うと、金髪はゆっくり起き上がる。そのまま立ち上がると、グイッと一つ背中を伸ばしてこっちを見た。
……待てよ、コイツ何も着てねぇ!!
おっぱい無ぇし、何か下半身にぶら下がってるぞ!?
男か? 男なんだな!? ちくしょう!!
「おい、お前」
「う、えっ? は、はい?」
女の子みたいな見た目から男の声がして、さらに一人称が“余”って、これは笑っていいのだろうか。笑いよりも涙が出そう。「恋かな?」って、ちょっとドキッとしちゃったのに。
でもここで笑ったら、ダメな気がする。この3ヶ月で培った危険察知力がそう言ってる。目の前の人物が放つオーラは、今までに出会った人や魔物のそれとは異質だった。逆らえない何かがある。俺、この世界じゃ(ほぼ)チート奴だから分かる。
やはり、コイツは魔王だ。
「肉を寄こせ」
美少女顔魔王は俺にそう言った。
「……肉?」
「余は腹が減った」
肉? 豚肉とか牛肉とかかな?
でもこの世界、羊っぽい家畜はいたけど食用じゃなかったし、魔物の中には食ったら旨いやつもいたけど、今ここにはいないし……。
あれこれ色々と考えていると、グイッと腕を引かれてベッドに押し倒された。
ん? なんだこの状況。まるで、まな板のコ……。
……肉って、俺かぁぁぁ!!
「まままま、ま、待て待て!! 美味しくない!! オレ、オイシクナイ!! てかお前何者だよ! 魔王か!? じゃああのおっさんは!?」
「あれは余の抜け殻だ」
「ぬ、抜け殻!? 脱皮性!? 魔王なのに!! なんかちょっとガッカリ!! というよりホントに俺美味しくないよ!! 人肉不味い!! カニバリズム反対!!」
「ギャーギャーうるさい餌だ」
エサって言った!!
何だこいつ! 力強すぎて全然振り解けないぞ!?
俺を今まで守ってくれた鎧やら防具やらは、いとも簡単に剥ぎ取られてしまった。ついでに衣服もビリビリに引き裂かれて、気がついたら真っ裸だった。
アカン。この絵面は、アカンぞ。スッポンポンの男が2人、ベッドの上で絡んでるのは、何か、……アカンぞ。
そんな悠長なことを思い浮かべてしまった時だった。
「い゙っ……! ぅ、あ゙っ!!」
魔王は自身の鋭い爪で俺の腹を引っ掻いている。一筋縦に撫でれば、それに沿って傷口ができ血が滲む。できた傷口に少しずつ爪を差し込まれる。
「あ゙あ゙っ!!」
「お前の血は真紅で美しいな」
刺さった爪が抜かれると、そこから鮮血が溢れ出てくる。流れ出る俺の血を、魔王は下で掬いとっていく。ザラザラとした舌の感触はまだ感じられたが、鋭い痛みが強く腹の他の感覚が鈍くなっているのもまた分かってしまう。
しまった……!
このままでは本当に殺されてしまう……!
「ふむ、なかなか美味だな。これは一度に喰ってしまうのは惜しい」
ペロリと舌舐めずりをした魔王の顔は、怪しく妖艶で、恐ろしかった。
「存分に堪能してから、喰すことにしよう」
魔王は長くてくるくるとした髪を後ろで束ねると、俺の首に手をかけた。コイツの爪は皮膚を切り裂くことを身をもって体験してしまった以上、首元へ手をかけられることは恐怖以外のなにものでもない。
「ひぅ……」
「安心しろ。首を掻き切ったりはしない」
この状況で安心なんかできるわけがない。
魔王のふっくらした唇が、俺の首筋に触れる。
「いっ……!」
唇の触れた箇所に痛みが走った。噛み付かれ歯が刺さっていると分かり、全身の血の気が引いていくのを感じた。血を吸われるのかと思ったが少し違うらしい。傷口から何かが体内に入ってくる。その箇所から段々と痺れが広がり始めた。
何か、変だ。腹部の痛みが徐々に引いていく。チラッと裂かれた腹を見ると、少しずつだが傷口が塞がり始めていた。それから首筋に感じる痺れと同じような、変な感じがした。
奴の手が脇腹をすうっと撫でると、後頭部から背筋を通り腰にかけてゾワゾワとする。その快感に身体をくねらせると、魔王は不敵に笑った。
「愉快、実に愉快だ!」
「うっ……、何が、ぁ……、愉快なんだよ……」
身体に触れられる度に下半身に熱が集まっていく。俺のムスコは、俺の意思と関係なく反り返って下腹とコンニチハしている。
「どうやら、今度の身体は淫魔の属性を持っているようだな。余の体液は媚薬同然といったところか」
幼く華奢な身体の上を、その細い指が滑る。頬から首に、胸から腹へ、そして色の薄い下半身へ。柔く抜き始めたその姿は、まるで一種の美術品のようで美しささえ感じる。
……わけねぇだろ!! 人の腹の上で何してんだコイツ!!
「っ……、俺の上で、チ●コ扱いてんじゃねぇよ……!」
「なんだ、お前も触って欲しかったか?」
「そういう問題じゃ、……やめろ、触るな、触っ、あ゙あ゙っ……!!」
ロリ顔の魔王は、俺のオレを触るどころか口に咥え込みやがった。ねっとりとした口腔と舌のうねりを感じた途端、無残にも暴発して奴の口の中で果てた。
口いっぱいに出した俺の精液は嚥下されてしまった。
可愛い女の子にされるならともかく、男に、しかも魔王にフ●ラされるなんて……!!
「信じられない……。男に、魔王にイかされた……。まぢムリ、立ち直れない……」
何だか目頭が熱くなってきた。両手で顔を覆うと、より惨めで情けない思いでいっぱいになる。
「立ち直れない? 何を言っている。もう立派に勃っているが」
誰も望んでいない下ネタをぶちかましてくれてありがとう。
面白くないからやめてくれ……。
「お前、名は?」
この期に及んで名前なんて聞いてどうするんだ。
……いや、待てよ。名を聞くということは、少しくらい俺自身に興味を示してるというわけで、もしかしたら殺されることはなくなったのかもしれないぞ。
それなら何も渋ることはない。
「マサヨシだ」
「ふむ。ではマサヨシ、お前は今から余の生き餌だ」
違ったぁぁぁ!!
ペットか!? いや、食うための家畜か!!
「お前の精液は極上だな。それに力も付くようだ」
「ふざけんな……!」
勝手なことを言う目の前の男に腹が立つ。くるくるの髪の毛を思い切り引っ張り、俺の横へ引き倒す。その上に跨り細い手首を一纏めにして、マットレスが沈むほど強くベッドに縫い付けた。
「魔王だか何だか知らないがな、俺は元いた世界に帰りたいだけだ。テメェの都合で飼われてたまるかよ。好き勝手しやがって……。終いにゃ犯すぞ」
そう言ってやると、魔王は喉の調子を整えるように咳払いをしてこう言った。
「優しく、しろよ?」
頬を染めるな、バカもの。
-END-
ジャスティス☆吉田先生の次回作にご期待ください!
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