第二章

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「お前ごときが、兄様を侮辱するな」 胸の中で重く冷たく渦巻く感情を抑えつけ、夜華は乱暴に男を地面に打ち捨て、刀を抜いた。 「組織へ戻る。そのゴミを連れて帰れ。処理班には周辺のゴミは処分せずに保管しておけと伝えろ。送る準備をしておけとな」 生存させる理由になる目的さえなければ躊躇いもなく殺害していたが、既に男の処遇を決める権利は夜華にはなく、ボスである夜月にあった。 なぜなら今回の襲撃は予測された事態というだけでなく、狙っていた機会でもあるからだ。一人を生け捕りにして組織に連れ帰る事が夜華の課せられた任務だった。 風屋班からの処理完了の連絡を受けた夜華は機能を失う事のなかった車に乗り込む。同車した部下から着替えの服を渡され、躊躇いもなく血で汚れた衣服へと手を掛けるが手を止める。 「数秒目を瞑っていろ」 命令に従う部下を確認して、服を着替えた。夜月に他者に肌を晒す事がないように心掛けてくれと常々言われていたのを思い出したのだ。 帰還した組織の本拠地は、繁華街から一時間程度遠く離れた中心地に聳え立つ、元はホテルとして機能していた十五階建ての建物にあった。奇跡的に被害が少なかった現状や最小限の修繕で済み、立地条件も良かった事から三年前からペッカオリギの本拠地となった。武器を携帯した兵士と訓練の施された犬、そして監視カメラで厳格に守られている。 近くには元軍事施設もあり、ホテル同様に修繕して元々あった資源を利用し、武器や、夜華が移動に使用していた車のように性能の高い軍車のような鋼鉄な車等を製造する工場、兵士の訓練場としても稼働している。 世界から秩序が失われてから電気やガス、水等、人々が生きる為に必要な生活の恵みは全てその土地を占める組織が独占権を占めている。使用する為にはその土地の組織に許可を貰い必要な使用料を納めるしかない。ペッカオリギでは地区によって金額を定めているが、組織によってやり方は当然違う。 だがそれも、置かれた環境によってはかつての夜華と夜月のように相手にされず、使用料を納めるどころか許可を貰う事すらできないのが現状だ。それはどこの組織だろうと同じだろう。 それゆえに、権力と富の象徴である電気を贅沢に使われたホテルのロビーは照明で眩い程の照明で照らされ、華やかな内装は贅を尽くされたものだ。夜華は出迎える構成員の中を突き進み、一人エレベーターに乗り込む。最上階に向かう為の特別性のカードキーを差し込み、ボタンを押した。 ボス、夜月専用のエリアである最上階に行けるのは夜華のように最上階専用のカードキーを渡された限られた者だけだ。夜華を入れて、一人--夜華と夜月をこの世界に引き込み、現在はペッカオリギ顧問である立花真波だけである。
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