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闇の中を地響きのような足音と怒号が、怒濤のように背後に迫っていた。一滴すら絞り切った喉が裂けるように痛み、酷使し続けてる足はいつしか鉛のような重力を訴え、地面に奪われてしまいそうな錯覚に駆られていた。
頭は激しく痛み、一瞬でも気を抜けば闇に引き摺りこまれそうな程の眩暈がし、余すところなく傷ついた全身が熱いのは全力疾走をしているからだけではない。
繰り返し吐き続ける荒い息は二つある筈なのに、まるで一つに混じり合ったかのように自分のものかさえ判断がつかなくなっていた。
背後に迫っている。怒り狂い、己よりも幾分も幼い命を狩ろうと大勢で躍起になり咆哮する獣達が。
寄り添う死の世界にそれでも絶望に全てを投げ出さないのは、己よりも少しだけ大きな手が小さな手を強く握りしめ決して離さず、膨らんだリュックを背負った背中が消えない一筋の光のように先導してくれるからだ。
路地裏の角を曲がり、隣接した建物の間の狭い通路を通る。散乱する腐敗物を含んだゴミが溝川のような悪臭を放ち、存分に荒らされた形跡を残したそこは、小さな子供が両肩を壁で擦られながらどうにか通れる程度だ。
「近くにいるのは分かってんだ!!今大人しく捕まれば出来るだけ楽に死なせてやる!だがこれ以上抗うんなら死ぬ方が楽なくらい嬲り倒して殺してやるぞッ!!」
痺れを切らした獣の雄叫びが、背中に突き刺さるように鋭く響いた。激しく体が震えるが、同時に力が込められた手に足を止めずに通路を飛び出した。
たどり着いたその場所は、大抵の人間は近寄らない場所だった。決して人が住めるような現状ではないからだ。
供給はされていないながらも、電線がそのままの電柱や割れた街頭があらゆる所になぎ倒されている。半分以上壁が崩れ落ちて中が見えるようになったコンクリートの建物、今にも倒壊しそうな木造建物。鉄の塊だけになった車。
何とも判別がつかない骨が散らばり、ありったけの悪臭が混じり合ったような悪臭はまるで死者の憎悪でも込められているかのように酷い。
道路は所々に崩壊し、奈落の底のような大穴を開けている場所さえあった。いつどこが崩れてもおかしくない状態である。
そんな場所に近寄ろうとする物好きはおらず、百年前は東京という名前の大都市の一部として栄えたこの場所は、かつての栄光の姿を醜悪に塗りつぶし、忘れ去られた廃墟と化していた。
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