149人が本棚に入れています
本棚に追加
翌日の部活の時間もコンピューター室を借り、清書をした後、わたしたちは松峰先生の元にデータの入ったメモリースティックを持って行った。
わたしたちを待ち構えていた先生が、
「完成、おめでとう!入稿に間に合って良かった。お疲れ様」
と労ってくれる。
「1年生がこんなに頑張ったのに、2年生、3年生は、結局、何も提出しなくて、ホント、困り者だわね」
先生が、ふぅと溜息をついた通り、幽霊部員の先輩たちは、今回の企画には不参加だった。
「一応、先輩たちには連絡したんですけどね」
梶君が苦笑する。
「ま、あとは私に任せて。今夜、しっかりと入稿しておくから」
今夜、先生が自宅のパソコンから原稿を印刷所に送ってくれるらしいので、わたしたちは、あとは本が完成するのを待つだけだ。
職員室を出ると、わたしと梶君は、どちらからともなく顔を見合わせた。お互いに笑みが漏れる。
「やり切ったね」
梶君がにっこりと微笑んだ。その笑顔にドキッと心臓が鳴った。わたしは照れ臭くなりながら、
「うん。梶君が前に『小説を書きあげたら世界が変わる』って言っていたのが、少し分かった気がする。とても充実していて、嬉しい。――わたし、自分の小説が人に読まれるのが恥ずかしかったけど、今は、みんなに読んでもらいたい気分」
と言った。わたしの言葉を聞いた梶君が、
「だろ?創り出した世界を、誰かに見てもらいたい。そんな気持ちになる」
と頷く。
「わたしの小説なんて、つたないし、読みづらいかもしれない。色んな要素を入れたから、闇鍋みたいに、よく分からないものになっちゃったし。でも、それでも読んでもらいたいなんて、わたし、マゾなのかな」
冗談めかして言ったら、
「それを言うなら、俺もマゾだ」
と、梶君は楽しそうに笑った。
*
最初のコメントを投稿しよう!