5.「代わりに打つ!」

5/23
前へ
/134ページ
次へ
 2駅目でわたしたちは電車を降りると、改札口を出た。駅前には商業施設があったものの、どちらかというとオフィス街といった雰囲気の街で、周囲にはビルが立ち並んでいる。こんなところでイベントをやっているのかなと思いながら、梶君と肩を並べて歩いて行く。  梶君は迷いなく大きなビルへ入ると、 「このビル、展示会場になっていて、普段は主に、企業の展示会や会議なんかで使われているみたいなんだ。時々、色んなイベントも開催されるんだよ」 と説明しながら、エスカレーターへと向かった。ビルの中は人で混んでいて、みんな、エスカレーターで上へと昇っている。その後についてわたしたちもエスカレーターに乗った。 (一体どんなイベントなんだろう?)  エスカレーターを3階まで昇ると、フロアは人で賑わっていた。若者もいれば、中年の人もいる。男の人と女の人、半々ぐらいだ。 「入口は……こっちだな」  人波の方向へ梶君が歩いていくと、会場入口と書かれた貼り紙が出ていた。入口のところで、入場料金を払わなければならないらしい。わたしがポシェットから財布を取り出そうとしている間に、梶君が先に、さっと2人分の入場料金を払ってしまった。 「梶君。わたしの分は自分で払うよ?」  申し訳ないと思って、慌ててお金を差し出すと、梶君は手のひらで制し、 「今日は俺が誘ったんだし、俺に出させてよ」 と微笑んだ。そして、 「はい、これ、入場パンフレット」 と行って、A4サイズの冊子を渡してくれた。 「ごめんね……じゃあ、お言葉に甘えるね。ありがとう」  わたしは梶君の好意を素直に受け取ると、冊子を手に取った。表紙に『文学マーケット』と書かれている。 「『文学マーケット』?」 「うん。『文学マーケット』は、文学作品の展示即売会なんだよ。プロ・アマ、ジャンル問わずに、様々な作品が集まるイベントなんだ。小説、評論、詩、絵本……なんでもあるよ」 「ええっ!そんな楽しそうなイベントだったんだ!」  梶君の説明を聞いて、わたしは目を輝かせた。 「さっそく入ろう」 「うんっ」  ワクワクした気持ちで会場内に足を踏み入れる。すると、 「わあっ!人がたくさん!」 会場内は、たくさんの長机が列に並べられていて、人で溢れ返っていた。長机は半分毎にスペースが分けられ、スペースごとに出展者が座っている。机の上には、わたしたちが文化祭で作ったような本がたくさん並べられていた。 「イベントって、こんな感じだったんだ」  「へえ~」と感心して声を上げると、  「端から順番に見て行こうか」 梶君がわたしを先導し、歩き出した。たくさんの人の間をすり抜けながら、イベント会場内を移動する。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

143人が本棚に入れています
本棚に追加