5.「代わりに打つ!」

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「確か、ジャンルごとに、スペースが分かれていたはず」  梶君が歩きながらパンフレットを開き、確認をすると、一番端の列は、詩のスペースだった。  長机の上に視線を向けながら、通路を歩く。どの机の上にも、綺麗な装丁の本が並べられていて、わたしは興味深く眺めていった。 「素敵な表紙の本ばかりだね。可愛いイラストが描かれていたり、箔押しされてたり。みんな自分で作ってるのかなぁ」 「自分で作っている人もいるだろうし、イラストレーターに頼んでいる人もいるかもね」 「そういえば、松峰先生も、文化祭の文芸部の冊子に、綺麗な表紙を付けてくれたよね」 「そうだね。先生、なんか、本づくりに手慣れてる風だったな……」  そんなことを話しながら歩いていると、梶君は興味を引かれたスペースを見つけたのか、ふと足を止めた。  スペースの前に、20代の大学生風の若い女の人が座っている。  「すみません、この本、見せてもらってもいいですか?」  梶君が女の人に声をかけると、 「どうぞ!」 その人は嬉しそうに本を差し出した。星の写真が使われたロマンティックな表紙の本だ。梶君が「どうも」と言って受け取り、中をパラパラとめくる。わたしも横からのぞき込むと、短い詩が綴られていた。  梶君は何ページか繰った後、 「これ、下さい。いくらですか?」 と言って、本を差し出した。女性が、 「500円です。ありがとうございます!」 と笑顔を浮かべる。梶君はお金を払うと、本を受け取って、手に持っていたカバンにしまった。 「その本、気に入ったの?」 「うん。すごく綺麗な言葉で詩が書かれてた。俺の文章固いから、こんな風に書けたらいいなって思う」 「でもわたし、梶君の文章好きだよ。そんなに固くないと思う。難しい熟語とかあんまりないし、読みやすい」  梶君にそう言うと、彼は「そう?」と言って、照れ臭そうに頬をかいた。
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