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「確か、ジャンルごとに、スペースが分かれていたはず」
梶君が歩きながらパンフレットを開き、確認をすると、一番端の列は、詩のスペースだった。
長机の上に視線を向けながら、通路を歩く。どの机の上にも、綺麗な装丁の本が並べられていて、わたしは興味深く眺めていった。
「素敵な表紙の本ばかりだね。可愛いイラストが描かれていたり、箔押しされてたり。みんな自分で作ってるのかなぁ」
「自分で作っている人もいるだろうし、イラストレーターに頼んでいる人もいるかもね」
「そういえば、松峰先生も、文化祭の文芸部の冊子に、綺麗な表紙を付けてくれたよね」
「そうだね。先生、なんか、本づくりに手慣れてる風だったな……」
そんなことを話しながら歩いていると、梶君は興味を引かれたスペースを見つけたのか、ふと足を止めた。
スペースの前に、20代の大学生風の若い女の人が座っている。
「すみません、この本、見せてもらってもいいですか?」
梶君が女の人に声をかけると、
「どうぞ!」
その人は嬉しそうに本を差し出した。星の写真が使われたロマンティックな表紙の本だ。梶君が「どうも」と言って受け取り、中をパラパラとめくる。わたしも横からのぞき込むと、短い詩が綴られていた。
梶君は何ページか繰った後、
「これ、下さい。いくらですか?」
と言って、本を差し出した。女性が、
「500円です。ありがとうございます!」
と笑顔を浮かべる。梶君はお金を払うと、本を受け取って、手に持っていたカバンにしまった。
「その本、気に入ったの?」
「うん。すごく綺麗な言葉で詩が書かれてた。俺の文章固いから、こんな風に書けたらいいなって思う」
「でもわたし、梶君の文章好きだよ。そんなに固くないと思う。難しい熟語とかあんまりないし、読みやすい」
梶君にそう言うと、彼は「そう?」と言って、照れ臭そうに頬をかいた。
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