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「ところで、先生はどんなお話を書いているんですか?」
わたしが尋ねると、
「ファンタジー小説だよ。私『ハリー・ポッター』みたいな話が好きなの」
先生は楽しそうにそう言って、机の上の本を一冊手に取り、渡してくれる。文庫本サイズで、メルヘンチックなイラストの表紙の本だ。
「良かったら、これあげる。新刊だから」
「えっ!そんな、ただでもらえませんよ」
わたしは首を振ったけれど、先生に「いいから」と言って押し付けられてしまった。
「読んでくれると嬉しいから」
先生に笑顔を向けられ、わたしは「それなら……」と本を受け取った。
「先生、既刊全部下さい」
わたしたちのやり取りを見ていた梶君が、おもむろに先生の机の上を見回すと、
「シリーズものですよね。どうせなら、最初から全部読みたい」
と言った。
「そんな嬉しいこと言ってくれるの?」
先生はパッと顔を輝かせ、満面の笑みを浮かべた。
「いくらですか?」
「生徒からお金もらうの気が引けるから、いいよ。全部一冊ずつ持って行って」
「えっ、そんな」
梶君は慌てて財布を取り出そうとしたけれど、それよりも早く先生は本を集めると、彼の手を取って、その上に乗せた。
「営利目的でやってるわけじゃないし。私はただ、自分の作品を、人に読んでもらうことが嬉しいの。今はね、プロにならなくても、こういうイベントや、ウェブの投稿サイトもあったりして、創作発表の場はいろいろ用意されてるのよ。私は、小説家になれればいいなって思う気持ちもあるけど、こうして自分の作品を発表することが出来て、それを読んでくれる人が1人でもいれば、幸せなの。本をもらってくれてありがとうね」
先生の幸せそうな笑顔を見て、わたしは胸がいっぱいになった。先生の言う気持ちが、今はわたしにも分かる気がする。
「……それなら、これはいただいておきます」
梶君は大人びた笑みを浮かべると、先生から受け取った文庫本を大切そうにカバンにしまった。
「『文学マーケット』楽しんでね」
「はい!」
「先生も頑張ってください」
手を振って見送ってくれた先生に手を振り返し、わたしたちはその場を離れた。
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