5.「代わりに打つ!」

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『文学マーケット』を堪能したわたしたちは、展示場ビルを出た。来た時と同じ駅に向かい、電車に乗って、待ち合わせに使った駅まで戻る。 「今日は楽しかった!」  改札を出て、わたしは梶君の方を向いた。 「それなら良かった」  満足した表情を浮かべている私に、梶君が笑いかける。イベントにはもう行ってしまったし、今日はこれ以上、行く場所もない。あとは「バイバイ」と手を振って、解散するだけだと思ったら、急に寂しくなり、わたしは梶君を見つめたまま、何も言えなくなってしまった。 「…………」 「……あのさ、蒼井さん」  黙っているわたしを見て、梶君が口を開いた。 「もしまだ時間あるなら……良かったら、マックにでも行かない?」  遠慮がちに誘われて、わたしは勢いよく、 「行く!」 と頷いた。梶君は、ほっとした表情になると、 「じゃあ、行こうか」 とわたしを促した。2人肩を並べて歩道を歩く。 「マックに行ったら、何を食べようかなぁ」 「マックのメニュー、何が好き?」 「わたしはアップルパイ!」 「あ、分かる。美味しいよな」 「そうそう、安いのに美味しいよね」  話に夢中になっていたわたしは、前をよく見ていなかった。ガツンと誰かの体に肩をぶつけ、 「あっ、すみません!」 急いでそちらを向いて謝罪の言葉を口にして、息を飲んだ。相手は、いかにも不良をやってます、という外見の若者。派手な開襟シャツにゴールドのネックレスを着けた男子と、金髪頭の男子、耳にも鼻にもたくさんのピアスをぶら下げた男子の3人組。地面には、わたしがぶつかったはずみで落としたのか、誰かのスマホが落ちている。 (しまった、とんでもない人にぶつかっちゃった……)
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