5.「代わりに打つ!」

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「か、梶君!」  乱暴な行動に出た男子に驚き、わたしが悲鳴のような声を上げたのと、 「やっぱり、晴南中の梶だ」 解禁シャツの男子が、梶君のメガネを奪ったのは同時だった。 「返せよ」  梶君が冷静に要求したけれど、開襟シャツの男子はメガネを地面に落とし、踏みつけて壊してしまう。 「中学時代、散々、暴れてたくせに、今はおとなしくしてますってか?」 「お前、確か小説家やってるって話じゃなかったっけか?印税たんまりもらってるんだろ?彼女が壊したスマホ代なんて、簡単に払えるよな?」 「慰謝料も要求していいんじゃね?」  不良男子たちが梶君を取り囲んで、ゲラゲラと笑う。梶君がわたしに向かって、 「蒼井さん、逃げて」 と小声で囁いた。 「えっ、でも梶君は……」 「俺なら、大丈夫だから」  わたしたちのやり取りが聞こえたのか、 「余裕だな」 「その澄ました顔、彼女の前で一変させてやろうか」 「情けない姿見せたくなければ、さっさと金出せよ」 不良男子たちが梶君に詰め寄った。ピアスの男子がわたしに手を伸ばして来たので、梶君がその手を叩き落とし、 「蒼井さん、走って逃げて」 とわたしを背中に庇った。手を叩かれたピアスの男子が、顔を真っ赤にして梶君の胸ぐらを掴んだので、わたしは、 「や、やめてくださいっ」 と叫んだけれど、 「蒼井さん、いいから、逃げて!」 梶君の焦った声音で、背中を向けた。ここにわたしがいても、梶君の助けにはならない。 (確か、あっちに交番があったはず……!)  わたしは勢いよく駆け出した。  背後で不良男子たちが「逃げたぞ」「おい、待て」などと言う声が聞こえて来たけれど、無視をして走り続ける。
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