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「か、梶君!」
乱暴な行動に出た男子に驚き、わたしが悲鳴のような声を上げたのと、
「やっぱり、晴南中の梶だ」
解禁シャツの男子が、梶君のメガネを奪ったのは同時だった。
「返せよ」
梶君が冷静に要求したけれど、開襟シャツの男子はメガネを地面に落とし、踏みつけて壊してしまう。
「中学時代、散々、暴れてたくせに、今はおとなしくしてますってか?」
「お前、確か小説家やってるって話じゃなかったっけか?印税たんまりもらってるんだろ?彼女が壊したスマホ代なんて、簡単に払えるよな?」
「慰謝料も要求していいんじゃね?」
不良男子たちが梶君を取り囲んで、ゲラゲラと笑う。梶君がわたしに向かって、
「蒼井さん、逃げて」
と小声で囁いた。
「えっ、でも梶君は……」
「俺なら、大丈夫だから」
わたしたちのやり取りが聞こえたのか、
「余裕だな」
「その澄ました顔、彼女の前で一変させてやろうか」
「情けない姿見せたくなければ、さっさと金出せよ」
不良男子たちが梶君に詰め寄った。ピアスの男子がわたしに手を伸ばして来たので、梶君がその手を叩き落とし、
「蒼井さん、走って逃げて」
とわたしを背中に庇った。手を叩かれたピアスの男子が、顔を真っ赤にして梶君の胸ぐらを掴んだので、わたしは、
「や、やめてくださいっ」
と叫んだけれど、
「蒼井さん、いいから、逃げて!」
梶君の焦った声音で、背中を向けた。ここにわたしがいても、梶君の助けにはならない。
(確か、あっちに交番があったはず……!)
わたしは勢いよく駆け出した。
背後で不良男子たちが「逃げたぞ」「おい、待て」などと言う声が聞こえて来たけれど、無視をして走り続ける。
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