5.「代わりに打つ!」

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 注目を浴びていることを努めて気にしないようにしているのか、梶君は飄々とした表情に戻ると、自分の席へと歩いて行ってしまった。わたしはその後を追うと、 「ねえ、本当に大丈夫?手を怪我していて、不自由ない?わたし、何か手伝えることない?」 と梶君に問いかけた。  カバンを机の横にかけて、椅子に腰を下ろした梶君は、わたしの顔を見上げると、 「実は、困っていることが一つだけある」 と言った。 「何でも言って」 「キーボードが打てない」  デジタルメモやノートパソコンのことを言っているのだと分かり、ハッとした。 「もしかして、小説が書けない……?」 「うん。原稿の締め切り、来週なんだ」 「ええっ!」 「編集さんに言って、締め切りを伸ばしてもらおうかと思ってるんだけど、迷惑かけるのが申し訳なくて」  溜息をついた梶君を見て、わたしはとっさに、 「じゃあ、わたしが梶君の代わりに打つ!」 と言っていた。 「俺の代わりに?」 「ええと、口述筆記っていうやつ?梶君が喋ってくれた内容を、わたしが打ち込んでいけばいいんだよ」 「口述筆記か……」  梶君は少し考え込んだ後、 「……じゃあ、お願いしてもいい?」 と微笑んだ。 「もちろん!」 「今日は蒼井さんは合唱部だっけ。明日の放課後、俺の家に来れる?」 「行くよ。どこにでも行く」  こくこくと何度も縦に頷くと、梶君は、 「ありがとう」 と微笑んだ。
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