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その週の金曜日と土曜日と日曜日も梶君の家にお邪魔し、わたしは口述筆記を続けた。
週末には、仕事がお休みの梶君のお父さんも家にいて、リビングで寛いでいたので、わたしは初めて梶君の部屋に入らせてもらった。
梶君の部屋は8畳の洋室で、青いカバーが掛けられたベッドと、勉強机、天井まである本棚が置かれていた。本棚には、新書や文庫本、漫画が整然と並べられている。
「すごいね。たくさん本がある」
まるで本屋のような本棚に驚いていると、梶君が、
「気が付いたら集まってた。もう入れる場所が無くて困ってる」
と肩をすくめて笑った。
「梶君、ライトノベルも読むんだね」
興味深く背表紙を眺めていると、
「何か気になるものがあれば貸すよ」
と言ってくれたので、
「本当?じゃあ、梶君のおすすめを貸して」
と頼んでみる。
「うん、分かった」
梶君は頷くと、わたしの隣に立ち、本棚に手を伸ばした。視線より少し高い場所にある新書を数冊取り出す。
前髪がさらりと揺れて、梶君の横顔が見えた。綺麗に整った顔にドキッとして、わたしはパッと視線を逸らした。
「このあたりがおすすめなんだけど……どうかした?」
そっぽを向いているわたしに気が付いた梶君が、不思議そうな顔をする。
「あ、ううん……何でもない」
わたしは慌てて梶君を振り向くと、胸の前で手を振った。
梶君の視線と、わたしの視線が合う。すると梶君は、
「……あのさ、俺…………」
と、何か言いかけて、
「…………」
思い直したように、口を閉じた。
「いや……今はまだいいや」
「……?」
ふっと笑って首を振った梶君を、じっと見つめる。
「これ、おすすめの本」
梶君はわたしに本を差し出し、受け取らせると、背中を向けた。そのままベッドに腰かける。
「蒼井さんは俺の机を使って。ノートパソコン、起動してあるから」
「うん」
わたしは梶君の勉強机の椅子をひいて腰を下ろすと、ノートパソコンの液晶画面に目を向けた。今日もワープロソフトの白紙のページが開かれている。
(梶君、さっき、何を言いかけたのかな……)
とても気になったけれど、それを聞くことは出来なかった。
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