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その日の夜、部屋でさっそく、梶君の小説を読んでいると、
「華乃。何読んでるの?」
お風呂から上がった梨乃が部屋に戻って来て、わたしに声をかけた。
わたしは顔を上げて梨乃を見て、
「内緒」
と答える。
「ふぅん……?」
梨乃はそれ以上は聞かずに、二段ベッドの下に腰かけた。充電していたスマホを取り上げて、液晶画面に指を走らせ、
「あ、斎木君からメールが来てる」
と嬉しそうな声を上げた。
「斎木君、何て?」
今度は、わたしが問いかけると、梨乃は、
「明日、どこかへ出かけないかって」
と笑った。
「デート?相変わらず仲がいいね」
もう、梨乃と斎木君の話を聞いても、わたしの胸は痛まない。むしろ、うまくいっている様子の2人に嬉しくなる。
梨乃は恥ずかしそうに、
「うん。仲いいよ」
と頷くと、
「華乃。また一緒に服を選んでくれる?」
と言った。
「もちろん、いいよ」
「やった!」
梨乃はベッドから立ち上がると、さっそくクローゼットに近づいて行った。扉を開け、
「うーん、明日は寒いかな。どうかな……」
唇に指を添えて悩み始める。その姿を見ていたら、わたしは、思わず、
「ねえ、梨乃。斎木君と――好きな人と付き合うのって、楽しい?」
と問いかけていた。
「楽しいよ!一緒に出かけるのも楽しいけど、ただそばにいるだけで、幸せな気持ちになる」
梨乃はわたしを振り返ると、にっこりと微笑んだ。そして、
「そんなことを聞いて来るなんて、さては華乃……好きな人がいるな?」
と悪戯っぽい表情を浮かべた。
「えっ?あっ、そういうわけじゃなくて……」
慌てて否定したけれど、梨乃にじっと見つめられて、わたしは、
「……うん、いる…………」
結局、正直に答えた。
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