5.「代わりに打つ!」

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 その日の夜、部屋でさっそく、梶君の小説を読んでいると、 「華乃。何読んでるの?」  お風呂から上がった梨乃が部屋に戻って来て、わたしに声をかけた。  わたしは顔を上げて梨乃を見て、 「内緒」 と答える。 「ふぅん……?」  梨乃はそれ以上は聞かずに、二段ベッドの下に腰かけた。充電していたスマホを取り上げて、液晶画面に指を走らせ、 「あ、斎木君からメールが来てる」 と嬉しそうな声を上げた。 「斎木君、何て?」  今度は、わたしが問いかけると、梨乃は、 「明日、どこかへ出かけないかって」 と笑った。 「デート?相変わらず仲がいいね」  もう、梨乃と斎木君の話を聞いても、わたしの胸は痛まない。むしろ、うまくいっている様子の2人に嬉しくなる。  梨乃は恥ずかしそうに、 「うん。仲いいよ」 と頷くと、 「華乃。また一緒に服を選んでくれる?」 と言った。 「もちろん、いいよ」 「やった!」  梨乃はベッドから立ち上がると、さっそくクローゼットに近づいて行った。扉を開け、 「うーん、明日は寒いかな。どうかな……」 唇に指を添えて悩み始める。その姿を見ていたら、わたしは、思わず、 「ねえ、梨乃。斎木君と――好きな人と付き合うのって、楽しい?」 と問いかけていた。 「楽しいよ!一緒に出かけるのも楽しいけど、ただそばにいるだけで、幸せな気持ちになる」  梨乃はわたしを振り返ると、にっこりと微笑んだ。そして、 「そんなことを聞いて来るなんて、さては華乃……好きな人がいるな?」 と悪戯っぽい表情を浮かべた。 「えっ?あっ、そういうわけじゃなくて……」  慌てて否定したけれど、梨乃にじっと見つめられて、わたしは、 「……うん、いる…………」 結局、正直に答えた。
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