君と紡ぐ言の葉は虹色

５．「代わりに打つ！」

　翌日。梨乃が斎木君とのデートに出かけた後、わたしは、自分の部屋で、梶君の小説の続きを読みふけっていた。

　北欧神話の神々の物語は胸が躍り、読み終わった後は、ただ感嘆の溜息ばかりが漏れていた。

「面白かった……。やっぱり梶君はすごいなぁ」

　小説を読んでいる間、まるで見ているように、わたしの頭の中には、神々の世界が広がっていた。まさに、わたしは、小説の世界に没頭していたのだ。

　梶君は、中学時代に荒れていた時、小説に救われたと言っていた。今の梶君の小説は、きっと、心が弱っている誰かを、救っているに違いない。

　わたしは、自分の小説のことを思った。
　わたしの小説はつたなくて、今は誰も救えないだろう。でも、梶君だけには「面白かった」と言ってもらいたい。

「…………」

　わたしはしばらく考え込んだ後、梶君の原稿を大切に勉強机の引き出しの中にしまい、机の上に立てかけてあったルーズリーフのファイルを取り出した。目の前に広げて、ルーズリーフを数枚、ファイルから外す。ペン立てからシャープペンシルを手に取り、

「――よし」

わたしは決心すると、文字を書き始めた。

　梶君とこの小説を推敲するうち、わたしは新しいエピソードを思い付いていた。それを書こうかどうしようかと、ずっと迷っていたのだ。
　でも、梨乃の言葉と、梶君の小説で、決心がついた。

　この物語が、梶君の胸に響くといい。

　そう願いながら、わたしは、シャープペンシルを動かし続けた。