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6.「最初の読者だよ」
「蒼井さん、小説の進み具合、どう?」
文芸部の活動時間、図書室で、書きあがった部分をチェックしながら、直しを入れているわたしに、本を読んでいた梶君が視線を上げて問いかけてきた。
「順調だよ」
「そう。何か相談があったら言って」
「うん、ありがとう」
気づかってくれることが嬉しくて、わたしは笑顔でお礼を言った。
「『若葉小説大賞』は、パソコンで打ち出した原稿を提出しないといけないわけだけど、蒼井さん、パソコン持ってなかっただろ?松峰先生に頼んで、またコンピューター室を借りる?俺が手伝えたらいいんだけど、まだこんな手だから……」
梶君は包帯を巻かれている右手を上げて「ごめん」と言った。心配そうにわたしを見ているので、
「大丈夫」
と手を振ってみせる。
「お父さんに『小説を書いていて文学賞に応募しようと思ってるから』って話して、パソコンを借りようと思ってるの。だから、自分で出来るよ」
妹の梨乃は、もう、わたしが小説を書いていることを知っている。今更、他の家族にも、隠すことでもないと、わたしは腹をくくっていた。
最初の頃は、自分の小説を人に読まれるなんて恥ずかしいと言っていたわたしが、今ではすっかり吹っ切れているのを見て、梶君が微笑んだ。
「そっか」
わたしも梶君に笑いかける。
「頑張って完成させるから、見ていて」
この小説が完成したら、真っ先に梶君に読んでもらおう。
そうしたら梶君は、一体どんな顔をするだろう。
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