6.「最初の読者だよ」

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「桐生先生、相変わらず人使いが荒いよ……」  翌日の昼休み。わたしは社会の教材の世界地図を抱え、廊下を歩いていた。職員室の前をたまたま通った時、桐生先生に呼び止められ、5時間目の授業までに、世界地図を社会科準備室から出してきて、教室に運んでおくよう頼まれたのだ。  ロール状に巻かれた世界地図は大きくて、四苦八苦しながら運んでいるわたしを、すれ違う生徒たちが気の毒そうに見ては通り過ぎていく。 (重い……)  階段を上る途中、さすがに疲れて、踊り場で一息ついていると、 「あれ?蒼井姉、何やってるの?」 上から斎木君が下りて来た。 「あ、斎木君。桐生先生に、次の授業までに教材を教室に運んでおくように言われて……」 「うわ、大変だな。手伝うよ」  斎木君は自然な動作でわたしの手から世界地図を取り上げると、ひょいと肩に担いだ。 「えっ、いいよ。どこかに行くところだったんでしょ?」 「購買部に消しゴムを買いに行くところだったんだけど、別に急ぎじゃないし」 「でも、悪いし……」  わたしが遠慮すると、斎木君は、 「気にしなくていいよ」  と笑った。 (こういうところ、やっぱりかっこいいな)  困っている人を見たら、迷いなく救いの手を差し伸べる斎木君は、素敵だと思う。 「ありがとう」 「んじゃ、行こうか」  わたしがお礼を言うと、斎木君は今下りて来たばかりの階段を上り始めた。その後に、わたしも続く。
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