2.「小説書いてるの?」

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2.「小説書いてるの?」

「右!右だ!走れ~!」 「シュート!」  2学期に入り9月になったものの、気温が高い日が続いている。風を入れるために開けられた窓から、体育の授業でサッカーをする男子の声が聞こえてくる。  今は、5限目の授業中。わたしは『枕草子』を読み上げている古典の馬場先生の、年を感じる落ち着いた声を右耳から左耳に聞き流しながら、窓の外を眺めていた。  グラウンドを元気よく駆け回っているのは、隣のクラス、1年2組の男子だ。チーム分けをして試合中なのか、盛り上がっているようだ。歓声を上げて応援をする女子の中に、双子の妹の梨乃(りの)の姿が見えた。  梨乃はモデルのようにすらっとしていて、美人なので、遠目にも目立つ。同じ双子でも、二卵性双生児のわたしは中肉中背、どこにでもいるような特徴のない普通の顔立ちで、梨乃とは全く似ていない。2組の梨乃と1組のわたしが双子の姉妹だということを、知らないクラスメイトもいるかもしれない。 「王子~!頑張れ~!」 「キャーッ、抜いたー!」 「シュートして~!」  2組の女子たちの黄色い声援が聞こえてくる。  見ると「王子」こと斎木礼央(さいきれお)が、鮮やかなドリブルで、追い駆けてくる相手チームのメンバーたちを振り切り、シュートを打つところだった。  斎木君に蹴られたサッカーボールは左カーブで飛んでいき、キーパーの腕をすり抜けて、吸い込まれるようにゴールに入っていった。  キャーという女子の歓声があがる。 (斎木君、やっぱり人気あるなぁ……。かっこいいもんね)  明るめの茶色の髪に、こげ茶の瞳。少し垂れた目元は甘くて、王子のあだ名にふさわしい整った顔立ちをしている彼を思い、わたしは、はぁと息を吐いた。 (わたしも2組に入りたかったな……)
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