4.「本を出さなくてどうするの!」

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 松峰先生が商業の担当の先生にコンピューター室の利用許可をもらってくれたので、わたしたちは教室のカギを持って、新校舎に向かった。道中、 「蒼井さんはパソコン出来る?」 と梶君が尋ねてきたので、 「少しだけ。お父さんのノートパソコンでゲームさせてもらったり、ネットサーフィンしたりしてる」 と答えた。 「ゲームとネットか……。ちょっと心許なさそうだね。俺も手伝うから、分割して打ち込むことにしよう」  梶君の提案に「うん」と頷く。  コンピューター室の中に入り、適当にパソコンの前に座ると、わたしたちは本体の電源を押した。軽い起動音がして、パソコンが立ち上がる。梶君がカバンから2本、メモリースティックを取り出し、わたしと梶君の前のパソコンのUSBポートに、それぞれ突き刺した。 「蒼井さん、ワープロソフトを開いてくれる?」 「ワープロソフトって、これ?」  アイコンを指し示すと、 「そう。それ」 と頷きが返ってくる。ダブルクリックしてソフトを開くと、白紙のページが現れた。 「俺が1章と2章を打つから、蒼井さんは3章を打って」 「分かった」  わたしは、ルーズリーフをファイルから外すと、1章と2章の部分を梶君に渡した。 「お手数をかけて、ごめんね。よろしくお願いします」  ぺこりと頭を下げると、梶君は、 「お安い御用」 と言って、ニヤリと笑った。キーボードに手を置いた途端、猛烈なスピードでタイピングを始める。 「……すごい!」   梶君の鮮やかな手つきに、わたしは目を見開いた。 (わたしも負けてられない)  ルーズリーフをそばに置くと、わたしもキーボードの上に手を乗せた。たどたどしく文字を入力していく。
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