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そうこうしているうちに、
「やっほー、華乃」
「華乃ちゃん、本もらいに来たよ~」
春ちゃんとフミちゃんが教室にやって来た。まっすぐに、文芸部の机の前にいるわたしと梶君のところへやってくる。
「本当に来てくれたんだ。ありがとう!」
嬉しくなってお礼を言うと、春ちゃんは、
「当たり前じゃない」
と笑顔を浮かべた。
「本ってこれ?すごいね、これ手作りなんだ」
「手作りって言うか……印刷所が印刷してくれたものだけどね」
わたしは苦笑しながら、春ちゃんに、少し照れ臭い気持ちで本を差し出す。
「ありがとう」
春ちゃんはお礼を言って受け取ると、ぱらりと表紙をめくった。
「あ、華乃、ペンネーム使ってる。かっこいい!」
「本名にしようかと思ったんだけど、やっぱり、全校生徒にバレるのは、恥ずかしくて……」
「ペンネームだったら、誰か分からない人もいるかもね」
なるほどと春ちゃんが頷く。
「自分のペンネームを付けるっていうのも、なんだか恥ずかしいけどね。梶君もペンネームだし、いいかなと思って」
梶君も今回、ペンネームを使ったけれど、もちろん『霧島悠』ではない。彼は自分がプロ作家であるということを、学校では隠すつもりのようだ。
(中学時代みたいに、妬みを受けるのが嫌なんだろうな)
隣に立つ梶君を見ると、わたしたちの会話を涼しい顔で聞いている。今さら梶君には、ペンネームが恥ずかしいという気持ちはないのだろう。
「今読んでもいいかなぁ?」
机の上の本を手に取ったフミちゃんがそんなことを言ったので、わたしは慌てて、
「それはさすがに止めて!恥ずかしすぎる!」
と胸の前で手を振った。わたしの慌てっぷりに、フミちゃんと春ちゃんが、あははと笑う。梶君も、わたしの狼狽ぶりを見て、面白そうに唇の端を上げている。
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