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みんなでわいわいと喋っていると、また誰かが教室に入って来た。
「梶、高校でまで、そんなことやってんの?」
刺々しい声に驚き、そちらを見ると、そこにいたのは百瀬君だった。制服のズボンのポケットに手を突っ込み、冷めた目でこちらを見ている。梶君が息を飲んだ音が聞こえた。
「どれだけ自己顕示欲が強いわけ?プロ作家だって隠して書いて、自分は他人と違って特別なんだって、心の中で周囲を馬鹿にしてるんだろ?あさましいよなぁ」
「…………」
悪意に満ちた言葉に、梶君は無言のまま、うつむいた。
「梶君……」
わたしは唇を噛んでいる梶君を見て、百瀬君に対し、ふつふつと怒りが沸き起こってきた。
わたしは、机の上からバッと一冊、本を手に取ると、百瀬君の前まで歩いて行った。わたしの突然の行動に、梶君や春ちゃん、フミちゃんが驚いている。
「あのねえ!百瀬君が梶君の才能を妬むのは勝手だけど、馬鹿にするのは許せないよ!梶君は別に自己顕示欲で小説を書いてるわけじゃない。自分の内面にある世界を表現して、それを人に楽しんでもらいたいって気持ちで書いてるの。小説を書きあげるのって、すごく大変なんだよ。アイデアを絞り出すのに苦労するし、自分が面白いものが書けているのか不安にもなる。途中で、もう書くのを止めようかなって、諦めたい気持ちにもなる。でも、わたしたちは、気持ちを伝えたくて書くの。真剣な気持ちで、身を削って書いてるの!だから、そんな風に言わないでよ!」
わたしは本を百瀬君の胸に突きつけた。
「これを読んでも梶君がそんな人だって思うなら、もう一度、わたしのところへ来て。わたしが梶君と梶君の作品の魅力を、徹底的に叩き込んでやるから!」
啖呵を切ったら、百瀬君は怯んだ様子をみせた。
「分かったら、これを持って出て行ってよ!」
百瀬君はわたしの手から乱暴に本を奪い取ると、背中を向けた。肩を怒らせながら、教室を出て行く。わたしは、はぁと息を吐いた。すると、
「華乃ちゃん、かっこいい!」
「よく言った!」
フミちゃんと春ちゃんが手を叩く音が聞こえた。振り向いてみると、2人が満面の笑顔でわたしを見ている。
「かっこいいってそんな……」
思いがけない言葉に動揺していると、ふいに、あちこちから拍手が聞こえてきた。漫画研究部の部員たちが、わたしを見て、感心した表情を浮かべている。
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