…やっぱりそれずるくない?

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ところ戻って学校の演劇部室前。そこには久米を先に帰して残っている部長の川越と久米を連れて来た二人組ともう一人、実は最初から部室に居た女子。黒い髪を腰まで伸ばして黒縁メガネをかけていて水平線を2本平行に引いたみたいな瞼も川越とは対照的に地味な感じに思える。名は大塚 愛奈という2年生の副部長だ。先程はずっと本を読んでいてページをめくる時以外は銅像並に動かなかったのでエンカウントしなかっただけである。存在を隠す能力は忍者級だ。 「…」部長の袖を引っ張る。 「ん?どうした」 「…どうしてあの子をすぐに返さないで部に誘ったの?」これは久米のことを言っているのだ。 「そうだな。じゃあ一つ聞こう、今のこの部に足りないものはなんだと思う?」 いきなり聞かれても困る。「…足りないもの?」咄嗟に返す言葉も見つからずオウム返ししてしまう。 実際、足りないものは沢山ある。部員が少ないのも演じる題目が限られるし、今までの態度でなんとなく分かるかもしれないが大塚は演者じゃなくて裏方希望だから更に演じる人が足りない。ただ『部員が足りない』だと、わざわざ問いかけてきた理由としては弱い気がする… (あぁ、全くもって面倒くさい。さっさと答え言っちゃえばいいのに) そう思って川越を見るがひたすら大塚を見つめ続けているだけだ。 「…」無言でグッと川越の顔を手で押す。 「お、おい。何をする」 「あんまり見ないでください」 川越は何か言おうとしていたが「分かった」とだけ言い、視線をどこに置いたらいいのか困ったのか取り敢えず周りを見回す。 「…部員が少ないというのは当たり前過ぎますよね」 「そうだな、それは誰が見ても分かることだ」 「他に何かあるの?」 「あぁ、非常に致命的で大きな欠陥だ」 「欠陥って言うと色々ありそうだけど」 「どちらかと言えば人数的なことでなくて、アイツ自体の能力だな」 余計に分からない。あの子に何か特殊な能力なんてあっただろうか?人のことは言えないけど演技するには向いていない気がする。 「…もう降参してもいい?」 「じゃあ、その代わりに今度のエチュード、出てもらうということで」 「え?何で脚本担当の私がそんな事を」そういうのが苦手だから裏方志望したのに。 「君はもう少し他の部員と打ち解けた方がいいと思うのだが」 (余計なお世話だ、そんなことより本の続きが気になるし自分の世界に浸っていたい) 「それじゃあ私が答えを見つけられたらやらなくていいわよね」 「…あぁ、いいぞ」 とは言っても何があるのか…あの子ねぇ、うーん…あっ 「もしかして、あの子の親が実は凄い人だったりする……とか?」 「…この世は無情よね」一瞬の気の迷いでとび出してしまった言葉を後悔する大塚。 「…えーっと…大塚さん、これはどうすればいいのでしょうか…」久米は小声で恐る恐る聞く。 今二人は部員達の目の前で起立した状態でいる。部員達は座って久米らがどう動くのか興味津々に見ていた。
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