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有栖川の心がシクシクと涙を流す間、本日の会議は粛々と進み、会長の議決をもって終了した。
有栖川はホワイトボードのメモを写真に撮ると、ボードに書かれたヨレヨレの文字を消していく。白い板の上で、マーカーが消したそばから伸びるため、何度も腕を上下させる。
……消すのって結構めんどくさい。
ぼうっとしながら手を動かしていると、有栖川は今更になって会長へ言った発言を思い出していた。
興奮していたとは言え、うるせぇ、はさすがにヤバイ言い方だったな……いやでも……ごちそうさまです。さっきのシチュ、早く帰って描き留めないと、、
つーか、締め切りやばいのに……
いや、これは別だ‼︎‼︎ 何のために生徒会入ったかって、、こういうのを見るためだろう!!
だが、やはり脳内テンションに対して、有栖川の顔は死んでいた。
新作更新予定日が近く、有栖川には帰ったらやる事が山積だ。ペン入れすら終わっていないものもあるのに、あと数日で印刷業者へ依頼しないといけない緊急事態となっている。時間は命。いそいそと後片付けをしている中、ホワイトボードの下から人影が2匹ひょっこりと現れた。
「ねー、ごめんってアリスちゃん。美樹反省してるよ?」
「真樹も反省してるから〜」
「「ねー怒んないで〜」」
双子は小首を傾げながら有栖川を見上げていた。それは、さながら食器を割ってしまった子犬が、飼い主に許しを請うようなつぶらな瞳で、ホワイトボードを消している手が一瞬止まる。
ぐぅ、かわ……や、ヤバイニヤケそう…
だが、有栖川は緩みそうになる顔をキュッと引き締め、見上げる双子から視線を外した。
「怒っていません……2人とも早く帰ってください」
「「手伝うよ」」
「帰ってください!! 片付けは俺の仕事です‼︎ 手伝わなくて良い!」
こんな裏方、俺がやりますから!
早く帰って2人でウフフアハハと遊んでらっしゃい!
視線も合わせず強く有栖川に言い切られ、うっと双子が気圧される。ウルウルした目を有栖川に向けても、全く相手にされない。
チッ。
双子は有栖川に聞こえないくらいの小ささで舌打ちをし、反対側で茶器を片付けていた同じく書記のワンコに突撃した。
「「せいちゃーん」」
ワンコ書記は、東 誠也といい、有栖川の2つ上の先輩だ。
ワンコ書記は体が大きいものの、無口でとても優しい。突然突撃されたにも関わらず、ヨシヨシと双子の頭を撫でていた。
な、な、何が起こった!?!?
良く分からないが!
ごちそうさまです!!
「……有栖川……」
ワンコが両手を涙に濡れる2人の頭に添えながら、有栖川に声をかける。双子は瞳をウルウルさせて、有栖川を指していた。
「はい? なんですか東先輩」
「あんまり……おこっちゃ……め……」
低いけど響く声が、ゆったりと言葉を紡ぐ。声が出ていないだけなのか、それとも舌っ足らずなのか、有栖川にとってそれは重要ではなかった。
めって……
しっかり だ を発音して下さい!!
俺死んじゃう!!
ワンコボイスで、変態1人が天上に上ぼろうとしていた。いや、むしろ早くイッた方が良いのかもしれない。
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