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き、教師?
マリモが割れかけた顎を優しくさすりながらも、綺麗にまた教卓に着地した少年を見上げた。
これが教師……だと……?
「失礼なガキだな! まったく! 理事長の命令とはいえ、こんなの面倒みんのかよ!」
″ガキってどっちが(笑″
小さく有栖川がそう呟いていたのを、マリモだけは聞こえた。
ハッ!
そしてマリモはやっと気がついた。自分がしてはならないルート選択を自然と選んでいた事に。喉から息が漏れ、サァーと顔が青ざめていく。
マリモは十分注意していたのだ。
もしもセクハラがましい事をされそうになったら、すかさず有栖川を人身御供にするつもりだったのだ。
だが……
こんなフラグは知らん‼︎‼︎
バッ…と勢いをつけて、反対側の有栖川を見ると、めちゃくちゃ勝ち誇った笑みを浮かべていた。※妄想劇場は扉修復中
くそ有栖川…あえて言わなかったなコイツ…
不覚にも教師とコミュニケーションとってしまった。
でも……でも……
「この教室に入った哀れな愚民よ、これから俺の事は志樹様と呼べ!」
こんなの教師に見えねぇよ!
「拍子抜けするくらいちっこいんだけど……これ、双子くらいのイメージだったんだが」
起き上がったマリモも有栖川にしか聞こえないくらいの声で呟く。
「あーそれなー…」
だが、先生は聞き逃さなかった。
「む? 双子? あれらは俺の愚弟よぁ! ふぁっははは! ふぁっあははは!!」
志樹は胸の前で両腕を組み、生徒に向かって仁王立ちをしながら、それから何度も高笑いを繰り返していた。
「そう、年離れた長男なんだって」
伊月 志樹は、伊月双子の実の兄であった。歳は離れているものの、見た目のサイズ感は全く変わらない。
これほど将来に希望が持てない(身長とかね)兄がいるなんて、自分だったら耐えられないだろうな、そう有栖川は思っていた。
「え、それマ? 双子もこんななの?」
「双子は違う。これが異常なの。俺は好きだけど」
「俺もあり。これは、長男総受けだよなぁ」
「まじでわかりみ」
「有栖川ぁ。俺、お前が総受けじゃなくてもいいよ。この先生組み敷いてよ…見たい」
「ここ教室なんだけど。自重しろや。見たいってなんだ…アホか! そして無理だ……この人黒帯だから。しかもだなぁ、煮たり(ローション)、焼いたり(蝋燭)、いれられる(玩具)らしいぞ」
「ドSかよ!?」
マリモには全て伝わった。
「ふぁはははっ、ぅ、ゴホッ…ゴホ…」
急に、高笑いを繰り返していた志樹の息がつっかえる。その衝撃で踏みつけていた足元が滑った。
ズル……
「…ゴ…う、うえ!?⁉︎」
……ドタンッッ‼︎‼︎
「「!?!?」」
大きな音を立てながら、志樹が教卓の後ろに背後から落ちる。その音に、アホ2人が現実に引き戻され、いきなり姿を消した志樹に、教室はまたザワザワとし始めた。
″し、志樹先生⁉︎ ″
″志樹ちゃん⁉︎″
″志樹坊⁉︎″
″志樹やん、授業しようよ″
その中に誰一人として志樹様と呼ぶものはいない。どうやら伊月 志樹は学級経営を見直した方が良いらしい。
「うるせぇてめぇら、心配してんじゃねぇぞ! 志樹様ってよべ……こんなの痛くなんて……いたく…なん…ふぇえ」
教卓の裏で志樹は打ち付けた腰や頭を抑える。
言葉とは裏腹にジワジワと広がる痛みに、少し釣り上がっていた目尻や口元はヒクヒクと歪み、大きな瞳に大粒の涙が溢れてくる。
ポロ…ポロ…
「痛くなんて…ふぇ……ぅあ…い、いたく…ぅ…ぇ…な…ふぇぇ」
生徒に心配されたくないと思う気持ちとは裏腹に、溢れる痛みと涙。
着席する生徒からは見えないものの、有栖川とマリモはバッチリそれを自前のシャッターに刻み込んでいた。
「なぁ、有栖川さっきの本当?」
「うん。妄想」
「おい…」
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