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「ぁあもう、志樹先生……」
これじゃぁいつまでたっても、足掛けフラグが回収できない。
目の縁をグニャグニャさせ、教卓の裏で涙を浮かべる志樹に有栖川が近寄り、小さな背中と頭をさする。
あなたの視界が涙で曇って足掛けに気づかなかったら、さっきの妄想は妄想で終わってしまうではないか。
「先生長男なんでしょう?」※言わせたいだけ
「そうだぁ俺は長男だから我慢きるぅ……でもぉ……有栖川…それやめろぉぅあああん、ぅああ」
ヨシヨシと頭をさすられ、我慢していた志樹の糸が切れた。
大きな声をあげ、ボロボロと涙が頬に流れ出す。
そして、その光景は生徒には見えず、うぁあああんと叫ぶ声だけが、教室を響かせていた。
″あ、有栖川書記が泣かせた″
″うわ……″
″なにしたんだよ″
マリモは隣で笑いを堪えながら、教室ザワザワに便乗する。
「うわー有栖川サイテー笑」
「なんでそうなる!? お前は少なからず見てただろ!?」
マリモの方を振り返っていると、志樹が有栖川の頬を挟み、こちらに引き戻される。目の周りを真っ赤にした志樹が、有栖川を覗き込み、その手を掴んで自分の頬に触れさせる。
「そうだぞ有栖川ぁぅあ…責任とって泣き止ませやがれ‼︎ もっとなでろぉ〜うぁあんああん」
この人…こーなるとホント面倒くさい……
「…あーはいはい、こうですか?」
まるで犬でも撫でるように大袈裟にワシャワシャしてやる。その有栖川の大胆かつ優しい手つきに、少しずつ志樹の目尻から涙が引きはじめた。
「うむ…いい感じだ。褒めてやるぅ」
「どうも…」
じゃ早く足掛けフラグに戻りましょう先生!
しかし手元を緩めようとする有栖川に気づくと、志樹はまた自覚的に瞳に涙を浮かべた。
「でももっと…ぉ…じゃないと泣いちゃうぞぉ…」
「はいはい」
千と千尋のなんちゃらでこんなキャラいたよなぁ……体格は全く違うけど。
くっそ…腕痛い……
昨日の追い込みから、有栖川の腕は悲鳴をあげていた。
伊月 志樹は見せつけていた。なぜか有栖川とすでに距離が近い一ノ瀬に。
普段誰も寄せ付けようとしない有栖川が、何故か出会ったばかりの一ノ瀬と、近くでコソコソ話をしているじゃないか。
遅刻してきたこの朝の時間にいったい、なにがあったのかと内心気が気でなかった。先程無様に机から転げ落ちたのは、コソコソ話を聞こうとしていたせいでもあった。
まぁ、結果として志樹は大勝利を収めた。
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