右鼻の名医と携帯電話カウンセラー

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「次の方、どうぞ中へお入りください」 私を女性看護師さんが大勢が診察を待つ待合室から医者がいる病室へと案内してくれた。 ここで私が女性看護師と彼女を名づけなければいけないのは、昨今の男女平等化が著しく進んだが為に看護婦と呼ぶと男女差別となる恐れがあるからそうした。 病室に入ると権力主義がにじみ出る初老の男の医者がデスクに向かって座っていた。 「はい、そこにお掛けになって。」 私は病院というところが小さいときから苦手である。何気なく私に席を勧めたつもりなのだろうが、初老の医者は私を相手することなく、前の患者の書き物をしながら片手間に言われた。来院しているという事は、体に不調を訴えてきているのだ。もし検査の結果、一秒を争う重病を抱えていたらこの医者の初動の遅れはあとで問題になるのではなかろうか。 しかし、医者はそんな患者の心配をよそに、いたってマイペースに書き物を続けた。どうせ風邪をこじらせた程度という事を見透かしたうえで見下した態度なのは分かっている。なんとなく腹が立ってしまう。私を案内した女性看護師が、自己診断で記入した用紙を医者に渡し、医者は用紙に目を通して始めて俺の存在を意識する。クルリと回転椅子を回して俺と対面したがまたすぐ用紙に目を戻した。初老の医者は患者本人と対峙するよりも健康保険ナンバーや記入した用紙の方を有益とばかりに、言葉を発することなく文字から何の病気かを読み取ろうとする。まるでサイコメトラーだ。これで全ての症状を言い当てられでもしたら私は彼を名医と認定し、全ての知人にこの医者の偉業を伝え必ずこの医者に診てもらうように薦めるだろう。  「それで?どうした?」
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