第3章 担任と教育実習生と

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 努力の甲斐あってか自分は人間のふりをするのがだいぶうまくなりました。  周囲は自分のことを明るく楽しく、優しい子だと言います。  お道化という性質上、人に笑われることに対してはホッとする、いわゆる安寧に近しいものを覚えるのですが、「優しい子」というのにはどうにも決まりの悪さというものを感じておりました。  とはいえ、それを真っ向から否定してしまうのは自分は詐欺師(おばけ)だと自ら公言しているようなものであります。ですから、それはお道化が上手く言っている何よりの証拠なのだと自分に言い聞かせ、納得するしかありませんでした。  ただ、どれだけ人間のふりをするのが上手くなっても、結局のところそれは全部嘘……全部ペテンなのです。  最後にたどり着く恐怖はいつも同じで、「いつボロが出てしまうのか」、「いつ化けの皮がはがれてしまうのか」ということに怯え、1日を乗り切るだけでも、神経の大半を削られていくような気分でありました。  いつも自分のそばにいるあの人が憎らしかったのです。  無垢で、純粋で、天真爛漫で、そのくせ鈍感なあの人。  自分が阿鼻地獄に溺れ、もがき苦しみ、葛藤をしながらお道化を演じていくのを、あの人はただ笑って見ているだけでした。  憎くて、憎くて、いずれは殺してしまいたい。この世から葬り去ってしまいたいと思う反面、自分はあの人の純粋さに憧れの念を抱いておりました。
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