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第6章 私にくれたもの
カーテンの隙間から漏れる朝陽に照らされて目を覚ます。
雫先輩はまだ寝てるみたいだ。
まぁ、そうだよね。
昨日は自分が泣き止むまで傍にいてくれて、そこから受験勉強をしてたんだから……もう少し休んでくださいね。
起こさないようにそーっとベッドから這い出て、部屋の外の洗面所までのさのさと歩く。洗面器に軽く水を溜め、バシャバシャと2、3回くらい顔を洗う。
顔を洗って部屋に帰ってみるともう先輩が起きていた。
「おはよっ」
「おはようございます。でも先輩は昨日寝るの遅かったんですから、もう少し寝てても良いんですよ?」
「うーん、何か目が覚めちゃってねぇ。まぁ、寝る時間なんてねぇ、その気になればいくらでもとれるんだから、ひーちゃんが心配することじゃないのよ」
「はぁ、そうですか……(嘘つき)」
先輩の答えに相槌を打ちながら内心では毒を吐く。ひょっとしたら小声で漏れてたかもしれないけど。それが聞こえていようがいまいが、どっちでもいい。なんなら聞こえてくれていた方が良かったかな。雫先輩には雫先輩なりの幸せを歩んでほしいから。私のことで無理をさせたくないから。
「じゃあ、顔洗ってくるね~」
聞こえてなかったみたいだ。
雫先輩はケロッとした表情で洗面台に行ってしまう。
その間に自分はこの前タグを取るだけ取ってすぐに衣装ケースにしまい込んだ夏服を出してみる。入学直前の物品購入以来眠ってて、昨日初めて開けたセーラー服は当然ピカピカ、ほつれなんかも一切ない。
ジャージ、Tシャツをそれぞれ脱いで袖を通した。
自然と右肘に視線を落とす。
やっぱり丸見えだ……右肘のケロイド。
これじゃあ、またオバケだって罵られてもおかしくないな。
「はぁ……」
反射的にため息がこぼれる。
どうしようか。
長袖を着たい。
でも長袖で登校すれば生徒指導に呼び出されるし。
去年も夏明けに見つかって生徒指導室でお小言三昧だった。荘川先生のフォローもあって内申点を下げられず解放はしてもらえたけど。あのザ・体育会系の先生は納得してる様子じゃなかったし。その証拠に今年もイロイロ言われた。となると着るしかないのか? 過去の傷跡を晒してまで?
「はぁ……別に着崩してないのになぁ」
再びため息。同時に内心の愚痴が声になって漏れ出す。
このところため息か弱音か愚痴ばっかり吐いてる気がする。
昇る太陽とは裏腹に気持ちは沈むばかりだ。
「あれ? ひーちゃん、セーラー着てる! 新鮮~」
一通りのケアを終えて帰ってきた雫先輩は珍しいものが見られたとこか楽しそう。
「でもケロイドが丸見えなんですよね……半袖って」
「じゃあ、包帯で隠してみたら? 目立っても直接見られるよりはマシじゃないかな?」
「その発想はなかったです」
「でしょー! じゃあこっち来て。巻いてあげるから」
朝から陰気にな自分とは対照的で笑顔の先輩。その笑顔に裏なんて一切なくて、本当に純度100%の澄みきった厚意というのを体現しているみたいだった。
そんな笑顔を見せられて断れるはずもなく。私はただ「お願いします」と右腕を差し出す。
「すみません……」
「何でひーちゃんが謝るの? 辛いことは誰だってあるんだしさ、傷が癒えるまで誰かに寄り添っていいんじゃないかしら。それでさ、ひーちゃんが元気になったら自分は十分幸せだから」
助けてもらってばっかりで、どうしようもない自分。ただただ、人に迷惑をかけないように努力することが全てだと思っていたけど。だけど時には立ち向かう勇気が必要なのかもしれない。私は大丈夫だって見せられればみんな安心できるはずだから。今は合理的に見えない決断だったとしても、それが未来の自分を……大切な人を守ってくれるんだとしたら、とにかく今はいばらの道を選ぶ。「雫先輩……私、もうちょっと頑張ってみます」
綺麗に巻いてくれた包帯、その真っ白な心に応えるために謎を解く。
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