第2章 ルームメイトは係長

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 球技大会、体育祭、文化祭に修学旅行――成長していくにつれて人と感情を共有できる場面はいくらでもありました。  けれども自分にはちっともわかりません。  この人たちは一体何に笑っているのだろう。  この人たちは一体何に泣いているのだろう。  あぁ、わからない。  どうしてなんだろう。  どうしてこうも居心地が悪いのだろうか。  周りの人々が人生の一場面で一喜一憂する度に自分はお腹のあたりがキリキリと痛み、その苦しさから絶望感にさいなまれ、自ら命を絶ってしまいたいと考えたことが多々ありました。  そのわりにはよくもまぁ、自殺もせず、発狂もせずいられたものだと思っております。  自分は隣人との接し方に苦労しました。それは教師から同級生、あの人にいたるまで全ての隣人に対してで、素のままでは会話などできたものではありませんでした。  そこで自分は道化という仮面を被るということを考え出しました。  それは自分が人間にできる唯一のサーヴィスでありました。  表では絶えず表情をつくっておきながら、内心では道化がバレないかと冷や汗を流している、とても危険なサーヴィスであります。  間違っても人が笑っているときに泣かぬように、人が泣いているときに笑わぬように、決して人と違わぬ存在であり続ける。  これができなければ自分は人から軽蔑され、詐欺師(オバケ)のレッテルを貼られては石を投げつけられ人里を追われる事でしょう。  感情がわからないなんてやはりヘンですから。  人は一風変わったものを認めようとしないと言います。  つまり自分は人間の世界に生まれた異物なのです。みにくいアヒルであり、みにくいヨダカなのです。  みんなが笑っているから自分も笑うのだ。  みんなが泣いているから自分も泣くのだ。  あぁ、今度は笑わなければ。  また今度は泣かなければ。  笑って、泣いて、しすれまたまたワラッテ……ナクノダ。  どうか……どうかこのお道化がバレませんように。  お道化を演じることが、自分のできる数少ない人間への求愛方法だったのです。
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