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「残ったな」
「たくさん有りましたもんねー」
食事会がお開きになり片付けが終わり、清子が和史に送られて帰った後、壮介と千都香は余った天ぷらを眺めていた。
「うまかったな、キス」
「っ!!!!」
壮介の呟きに、千都香が目で見ても分かるほど動揺した。
「キス、持って帰るか? 」
「結構ですっ」
皿に盛られた残り物にラップを掛けながら、千都香が不機嫌な声を出した。
「置いといたら俺が食っちまうかもしれねぇぞ、キス」
「良いですよ? 元々、先生にって作ったんだし……もし明日まで残ってたら、お昼にここで頂きます」
「じゃあお前専用キスとして取っとくか、このキスは」
「……さっきからっ、なんなんですかっ?!」
皿を冷蔵庫にしまった千都香が、声を荒げた。
「なんなんだって、なんだよ」
「わざとらしいっ……キスキスキスキス言わないでくださいよっ!!」
千都香に睨まれ、壮介も睨み返す。不毛な争いだ。
「何言ってんだ? お前が先に俺にキスキス言って来たんだろうが。『キスは好きですか?』やら『キスにしていい?』やら『美味しいキスあげま」
「やぁあああああっ!!だめっ、だめだめだめー!!」
「ダメってなんだよ。お前も少しは自分の発言に責任を持ってだな」
「……ばかぁっ…………」
千都香が急に涙声になった。
「あ?」
「ばかっ……! 先生のばかっ、意地悪っ!!」
「おい待て、」
静止を全く無視した千都香はエプロンを脱ぎ捨ててバッグに強引に突っ込み、ずかずかと玄関に向かった。
「 ……おやすみなさいっ、また明日っっ! 」
からかい過ぎた。千都香が膨れただけではない。壮介も想定外のダメージを喰らった。
真っ赤になって涙目でこちらを見上げて唇を尖らせて「先生の意地悪っ……!!」などと言われるとは。
明日、キスを挟んで、どういう顔で会えば良いのだ。
千都香がけたたましく扉を閉めたあとの玄関に、壮介は頭を抱えて崩れ落ちた。
─完─
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