キスの日

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   *  黄金色に揚がった天ぷらが、大皿にこんもりと盛られている。  姫竹、かぼちゃ、にんじん、なす、エビ、イカ、キス。  少しずつ減っていくその山を、四人の人間が囲んでいた。 「美味しい……揚げ立て、最高ですね……!」 「確かに旨いな」 「壮介にも分かる位美味しいなんて、相当美味しいって事だね」  和史の軽口を睨むと、壮介はキス天を口に放り込んで咀嚼してビールを飲んだ。どちらかと言うと好きどころではなく、キスはかなりお気に召した様だ。 「清子さん、千都ちゃん、ありがとう」 「ありがとうございます、ご馳走様です」 「良かった!喜んで頂けて、何よりだわ」  清子はにこにこと、天ぷらとご飯、インスタントのわかめとめかぶの吸い物を楽しんでいる。男性陣はビールだが、千都香と清子はご飯と汁物付きの定食仕様だ。  千都香も、自分の揚げた筍に続いてキスにも手を伸ばし、天つゆを付けて頬張った。 「んー!……そのお魚の日に食べると、特別美味しい気がしますね……!」 「お魚の日?」 「はい。今日は、キスの日なんですって」  もぐもぐを終えて頷いた千都香の言葉に驚いて、全員固まった。  「……は?」 「千都ちゃん、それって」 「それ、もしかしたら、お魚のキスのことじゃないんじゃないかしら?」 「へっ?」  眉間に皺を寄せた壮介に、笑いをこらえた和史に、困惑した清子に……それぞれに言われた千都香は、きょとんとした顔になった。 「キス……? お魚じゃないキスですか? …………ぅええぇえっ!?」  何かに気付いたらしく、千都香は見る間に真っ赤になった。 「だって、だって鮮魚コーナーに書いて貼ってあったんですよ!『今日はキスの日!今が旬!』って!!」 「……お前……」  壮介は眉間の皺をますます深くして、可哀想な物を見る目で千都香を見た。 「鮮魚売り場に、騙されてんぞ……」 「お店の人も、騙すつもりじゃ無かったんだろうけど……騙してなくても、ジョークではあるかも」 「これもおやじギャグって言うのかしら?」  口々に言われた千都香は、小さくなった。 「……すみませんっ……忘れて下さいっ……」  あまりにも千都香がしゅんとしたので、その後はその話題には触れることなく。  食事会は、和気藹々のうちに幕を閉じた。
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