春の夜

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囚われてから数時間が経過した塔で、エリーゼは丘に沈みゆく夕日を、格子のある窓辺から眺めていた。 眼下に広がるのは、鬱蒼とした賢者の森。 日の暮れかかった森はすでに陰気な暗さを抱え、空気まで澱んでいるように見えた。 ―― いったい何が悪かったのか。 いや、理由は分かっている。 しかし、小国とはいえ、一国の姫君である自分が監禁されるとは…… お天道様も、さぞかし驚いていることだろう。 自国の守護神である叡智(えいち)の女神ヴィルナスなどは、 《 信仰がたりないんじゃないの 》 憤慨しているに違いない。 エリーゼは、月光のようだと称えられる美しい銀髪を指で(もてあそ)びながら、本日、数十回目となる大きな溜息を吐いた。 最近、ちょっと調子に乗りすぎていたのだろうか。 しかし、少々の棘と毒をはらんだエリーゼの口撃は、自国にとって必要不可欠であり、それもまた彼女の魅力であり、最大の武器であった。 なぜなら ―― 海洋に面した南方をのぞく三方向を強大国に囲まれた我がルーベシラン王国は、それはそれは小国なのであるから。
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