或る日の侍女と騎士

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しばし呆けていたジャンだったが、「ほら、選んで」と国王に急かされると、 「ジル! マーロウ! ギャレット! ヴァンス! ライナス!」 戦場を共に生き抜いた五人を呼んだ。 異様な雰囲気のなか、前に進み出てきたのは、全員が屈強な男たちだった。 「いいね。みんな強そうだ。それじゃあ、行こうか」 国王はそう云って、本当にそのままジャンと男たちを引きつれて鍛錬場から出ていってしまった。 その後ろ姿を見送ったジェラルドが渋い顔で、レオンを振り返る。 「おい、アイツらが国王の近衛騎士って……何の冗談だ?」 「冗談にしては、質が悪すぎるだろ。よりにもよって、あの大男たちが騎士の花形なんて笑えない」 レオンの言葉に、ジェラルドも頷くほかない。 ジャンが選んだ五人は、数多の戦場を駆け抜け、生き抜いてきた精鋭中の精鋭と呼べる兵士だったが、如何せん『近衛騎士』に求められる華やかさとは対極にあるといっていい風貌だった。 全身筋肉の鎧を纏った巨体に加え、帝国軍の上位10名に入る強面。加えて王宮生活とは無縁の者たちだ。 これが決定ならば、今後ルーベシラン王国の宮廷行事には、むさ苦しい男たちが雁首揃えることになる。 ――ありえない 鍛錬場に残った元帝国軍人たちは、一様に顔を曇らせた。 「あのー、クラウス総督、人選について意見してきた方がいいと思いますよ。あれはちょっとどうかと……」 レオンの進言に、クラウスも「たしかに」と思わざるを得なかった。 「ひとまず、全員待機していてくれ。レオン、あとを頼んだ」 「エエ~ッ!」 丸投げだ、と騒ぐレオンを無視して、クラウスは『王の間』へと急いだ。
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