春の夜

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小国ルーベシランの第一姫、エリーゼ・ルーナ・アンジェッタ・ルーベシランは、数多(あまた)の吟遊詩人たちから「傾国の美姫」と詠われる。 真珠色の肌に薔薇色の頬を持ち、麗しい唇から紡がれる千一夜の物語は、美しい夢の調べ。 銀糸のように流れる艶やかな髪を持ち、色鮮やかなエメラルドグリーンの瞳が輝く、類まれなる賢姫。 ただし、口を開かなければ。 ☆ ☆ ☆ エリーゼ姫、ただいま17歳。 「傾国の美姫」を射止めようと、他国の王族や貴族たちが次々と婚姻の申し入れにやってくるようになり、はや数年が経った。 婚姻どころか、いまだ婚約者候補すらおらず。 ルーベシランおよび周辺国の王侯貴族の初婚年齢は平均15歳であるからして、少々行き遅れ気味である。 理由は、彼女の結婚条件にあった。 「未来の夫となる御方に、わたくしが求めるのはただ1つ。それは知識と教養において、わたくしより優れていることです。身分や容姿、そんなものは森に生える雑草と同じくらい、どうでもよろしいのです」 地位も身分も関係なしに、知識自慢の残念容姿たちが、こぞってルーベシランを訪れたが、結果はよろしくない。 「貴方、自国の主要財源である黒麦の収穫高を把握しておれらないのですか?」 エメラルドグリーンの瞳が、近隣国宰相の三男とやらに、雑草を見るよりも冷たい光を放つ。
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