春の夜

4/16
前へ
/289ページ
次へ
僭越(せんえつ)ながら、わたくしが教えて差し上げましょう。4,044万キロトンです。ちなみに今年は昨年より188万キロトン減っております。ここ数年、貴国の黒麦は100万キロトン単位で減産傾向にあるのはご存知かしら。宰相閣下にお伝えください。天候等の明らかな理由がない限り、何らかの原因があるはず。ご留意されたほうがよろしいかと」 「……はい」 宰相の息子は、話の半分も理解していない顔で頷いた。 エリーゼの美しい眉が、イラただしげにあがる。 ほとんど理解してないのね、このボンクラ息子が。 「貴方との時間は双方において益がありません! 次の御方!」 ―― 近年 ルーベシランの謁見の間では、婚姻申込者に対するエリーゼの棘あり毒ありの口撃が、日常化していた。 婚約者などできるはずもなく、父は玉座にて頭を抱え、母である王妃は誇らしげに微笑んでいた。 ルーベシランの城下では、こんな噂がささやかれる。 「なんでも行き遅れになっちまったらしいぜ。自分より賢い者にしか嫁がないんだとさ」 「そりゃあもう、賢者様でも現れない限り、一生独身宣言したも同然だねえ」 「キレイな姫さんなのにねえ、でもまあ、知識の泉がよその国に行かなくて、王妃様は安心してんじゃないのかい」 「セレスティーナ様はそうだろうけど、陛下がなあ」
/289ページ

最初のコメントを投稿しよう!

458人が本棚に入れています
本棚に追加