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男が現れたのは、そのころだった。
この日、ルーベシランの宮殿では、夜会が開かれていた。
《 色鮮やかに咲き乱れる花々を愛でる夜 》
たいそう退屈で、鼻がムズ痒くなるような夜を、何ゆえ迎えねばならなかったのか。
これはひとえに、エリーゼの行き遅れを危惧した父王が、
「たまには一国の姫らしい姿を見せてくれ」
謁見後のある日、愛娘にそう懇願したからである。
これに憤慨したのは王妃であった。
「アナタっ! 姫らしいってなんですの?! エリーゼはわが国の姫として、それはそれは立派に務めを果たしているではありませんか。今日だって、あんなワケのわからない王国の世継ぎ問題を、すんなり解決してあげて――」
「後宮を閉鎖しろ、と云っただけじゃないか」
「まあ、なんてこと! アナタの耳はお飾りなのね、きっとそうにちがいないわ。いかに速やかに、後宮の側室たちを追い出すか、あの大臣にエリーゼがさずけた策は、それはそれは素晴らしいものでした」
「あれが一国の姫の思いついた策だなんて……いま思い出しても、なんて恐ろしい」
「いったい、どこがですのっ!」
王と王妃の見解の相違は埋まりそうにない。
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