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ピンポーン♪
この空気に似つかわしくない軽快な電子音が流れる。
インターホンで「どちら様ですか?」と聞く気力が無く、なんとか表情を戻すと、チェーンをつけたまま玄関を開ける。
「・・・はい・・・」
「お忙しいところ大変申し訳ございません!奥様でいらっしゃいますか?」
キンキンと高い声が体に直接響いているようで気持ち悪さが倍増する。その上隙間から顔を覗かせたのは、無表情の白い仮面だった。
きっと悪徳商法か怪しい宗教勧誘か いずれにしても相手にしないほうがよさそうだと考えた。
「あの・・・うち間に合ってますので」
「お時間は取らせません!私販売業を営んでおりましてお話だけでも・・・」
「・・・お引き取り下さい」
「ほんの5分少々ですから 住吉陽子様」
仮面は私の本名を当たり前のように会話に挟んだ。
だめだ・・・気持ち悪くて吐き気がしそう・・・早急に切り上げようと、語尾を強める。
「・・・警察呼びますよ・・・」
「私は貴方様に一切の危害を与えないことをお約束します。」
「いい加減にっっ・・・!!」
「お気を悪くなされたのであれば申し訳ございません!しかしね 私は住吉様を尊敬いたしますよ。部屋から出てこない息子様に家族への興味が薄い旦那様 絶賛反抗期中の娘様をたったお一人で抱えていらっしゃるのですから!」
・・・新手の強盗かしら・・・とにかく追い払いたい・・・。
「・・・あの・・・他をあたっていただけます?あいにく金目のものはございませんので・・・」
「いいえー 私は貴方から無理やり物を奪うような真似はいたしませんからご安心を♡」
扉を閉じようとするが、男の細い指が内部へ入り込んでおり不可能だった。
「私はね 売って欲しいんですよ。貴方の同意のもとに。」
「・・・何をですか・・・」
疑いの目を向けると、無表情の仮面が乾いた声でクックッ・・・と笑う。
「2階にいらっしゃるんでしょ?あなたを苦しめる悩みのタネが」
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