かぞくの愛

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しばらくは例えようもない絶望感に駆られ、何も手につかなかった。 家族には「体調を崩した」と告げ、家で過ごすことが増えた。 自分が紘汰を売った・・・実の息子をいとも簡単に手放してしまった・・・自分で自分を呪う日々が続く。 どのくらい寝ただろう。耳元のスマホから、ピコンと音がなった。 『医者には行ったか?何か必要なものはあるか?』 「・・・あなた・・・」 夫は基本仕事中に連絡をよこさない人だ。だから、驚きが隠せない。 『何日か休めば戻るって。お薬ももらえたから大丈夫。』 そうやって、普段使わない動物がお辞儀をしている絵を乗せる。 あの子の世話に頭を悩ませる必要がなくなった分  夫との仲が修復していった。 「お母さん。今日私がご飯作るよ。」 「え?いいの?彩」 「試験前で部活ないしさ」 あの子に使っていた時間がなくなった分  今まですれ違いだらけだった彩との会話が増えていった。 ふと思う。 ・・・これで良かったのかもしれない。 あの子を売ったことは  間違いではなかったのかもしれない。 紘汰という子どもは、最初からいなかった。そうしよう。そう思ってしまおう。 以前のような家庭に戻れば戻るほど  紘汰への罪の意識はまるで初めから存在していなかったかのように薄れていった。 そんな生活が続き、私は普段どおりの生活を営めるくらいに体調は回復した。外の空気や物音が、ずっとずっと心地よく感じる。 今日の夕ご飯は、久しぶりにちょっと奮発しよう。軽い足取りで顔なじみの精肉店へ向かう。 「あのすみません。鶏肉を」 「いらっしゃいませ!」 背を向けて作業をしていた店員が振り向く。 心臓が止まりそうだった。 「何にしましょうかっ」 「・・・あ、えっと・・・この・・・鶏肉を・・・」 「いつもの300グラムにします?」 「あ、はいっ・・・お願いします・・・」 手際よく厨房に声をかける店員の声は、明らかにどこかで聞き覚えのあるものだった。 「・・・紘・・・汰・・・?」 「あーら住吉さん!久しぶり!!」 バンダナを巻いた気さくな奥さんが厨房から顔を出す。 「彩ちゃんから体調崩したって聞いてたから心配してたのよ~大丈夫?」 「えぇ・・・まぁ、大丈夫です・・・えっと・・・」 「・・・あー!この子ね!うちの一人息子!最近専門学校卒業して、うちの仕事手伝えるようになったのよー!ほら、アタシもおとっさんも歳でしょ?」 ニコニコとふくよかに笑って真横の店員の腰を叩いた。 「ちょっと母さん(・_・;)」 奥さんの圧に押されながら、店員は私に笑いかけた。 「初めまして。長谷川紘汰(はせがわこうた)です。」 「おーい!ちょっと電話出てくれ!!」 奥から威勢のいいご主人の声がする。 「あいよー じゃ あんたレジ頼むよっ」 そういって奥さんは部屋へ引き上げていった。 「いつも騒がしくてすみません・・・」 軽く頭を下げると、彼は機材でトレイにラップをかけ始めた。
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