かぞくの愛

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「要は家庭環境と言うことですよ。」 甲高い声に振り向くと、あの時と全く変化のない格好をした仮面男が立っていた。 「・・・どういうことなの・・・」 「貴方様がお売りになった紘汰君を、あの夫婦が買い取ったのですよ。いやー助かりました!ご夫婦は子宝に恵まれず、長年寂しい思いをされてきたそうです。充分大人ですが、大いに喜んでいらっしゃいましたよ。」 「・・・そんな・・・だって・・・紘汰は・・・」 私が言葉を詰まらせていると、仮面男は静かに近づいてきた。 「『引きこもりだった』ということですよね?」 「・・・私が何度呼んだって、出てきてやくれなかった・・・」 精肉店のショーケースが背中に当たり、逃げ場を失ってしまう。 男は、声のトーンを少し落とした。 「世の中にはいくつもの事例がございます。なので一概に踏み込むことはできませんが・・・住吉様。あの状態をお作りになったのは、本当に紘汰君自身なのでしょうか?」 「・・・えっ・・・」 「さぁ・・・よく思い出して下さい・・・」 「紘汰すごいじゃない!クラスで最高得点だったんだって?!」 『あの気に入らない親の子なんかに負けなくて良かった・・・』 「この高校って 進学率がすごくいいんだって!」 『周りからもよく知られてる良い高校だからね・・・』 「夜遅くまでやってるけど、あまり無理しないでよ?」 『ここで倒れられたら面倒だし・・・』 「紘汰?ねぇどうしたの?何かあったの?」 『大学まで行かせてあげたのに・・・』 「お願いだから出てきて・・・あなたの顔がみたいの・・・」 『そしてちゃんとした就職をして、私達の生活を守っ・・・』 紘汰のためを思って言葉をかけていた。 そのつもりだった。 でも・・・裏の本心は・・・ 「・・・息子は・・・取り返せないの・・・?」 「取り返してどうします?」 男は白い仮面をずいっと向けてきた。 「取り返したところで・・・あなたはどうします・・・?」 「もっときちんと話し合って・・・!!!『もう恥ずかしい思いをしたくない・・・』」 あぁ・・・私・・・ そういう考えしか・・・浮かばなくなってる・・・。 背中を預け  足からがっくりと座り込む。 「人生に巻き戻しは無いのですよ。住吉様。」 男は私を見下ろしていた。 「変えられない過去を残すのも 未来を変えていくのも・・・全ては一人の所有権なのですから。」
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