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次の瞬間 男の前を無数の人影が遮ったかと思うと、いつもの風景に戻っていた。
「あれ?お客さん?」
紘汰の声がする。
「大丈夫?」
「・・・あ・・・あぁ・・・はい、ちょっと十円玉落としちゃって・・・」
私は体勢を整えると、紘汰に代金を渡す。
「丁度いただきます!こちらお品物になりますね・・・あ、ちょっと待って!」
ビニール袋に入ったパッケージが置かれるたまま、紘汰はもう一つ袋を出した。
「これ、店からです。いつもいらっしゃってくれてるので、当店自慢のカツサンド。彩ちゃん 好きですよね。これ。」
「・・・あ、ありがとうございますっ」
私は袋を受け取ると、早めに会釈をして去った。
「またお越しください!!」
その笑顔は いつか私の似顔絵を描いてくれた時に見せた紘汰そのものだった。
紘汰・・・ごめんね・・・
紘汰・・・どうか幸せになって・・・
滲んだ目に、太陽が もう少しで夕焼け仕様になっていく。
過去は変えられない 私は涙を拭った。
「・・・あ、もしもし彩?・・・うん・・・今日ね、唐揚げにしようと思うんだけど・・・」
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