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かぞくの愛
「・・・」
また捨てられている。
小さい頃のあの子なら 喜んで食べてくれたはずなのに。
無残に飛び散ったひき肉のかけらを拾い集め、デミグラスソースのシミがついたキッチンペーパーにくるんでゴミ箱に放り込む。
「・・・紘汰・・・いるの・・・?」
ドアに呼びかけても返事がないことは、目に見えていた。
・・・いるに決まってる。大学を卒業した瞬間から、あの子の居場所はここしかないのだから。
秒針音が響く 閑散としたリビングルーム
毎年祝っていた誕生日は いつのまにか誰も意識しなくなっていた。
個々バラバラの時間に食べるのがバカらしくなり ホールケーキを買うのを辞めた。
「おかえりなさい。あなた。」
「・・・うん・・・」
夫はもともと口数の少ない人だった。こちらに干渉しない代わりに、家庭に対しても無関心のようだった。
夫はあの子の部屋を見下すような目つきで一瞥し 自室へ入っていった。
こんな状態になっても、夫は息子に声一つかけない・・・見慣れた光景なのに、最近は妙に腹が立ってくる。
「・・・ただいま・・・」
「あ おかえりなさい彩。どうだった選抜は」
「落ちた」
テニスラケットをだらしなくぶら下げ 彼女もまた自室へ閉じこもる。
・・・何のために一緒なんだっけ?
このまま考えれば考えるほど おかしくなってしまいそうだった。
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