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見えない速さでおじさんが飛び出す。部屋の天井に向かったと思うと、すぐに歯に引き寄せられるように再びテーブルに立つ。
(おっさんじゃん!)
ふつう妖精さんてのは、蝶の羽とかが生えてる美人さんとかイケメンなんじゃないの? あたしが思ってたやつじゃない。
姉もまた、妹と同じくその容姿にがっかりしていた。
「返せあたしの歯!」
別に欲しくて歯医者から引き取ってきたわけではないが、どうせならイケメンに貰ってほしい。
再び妖精を捕まえようとするが、望の手は光に擦りもせず、空を切る。
「おねーちゃんこれ!」
みちるから部屋の端から何かを投げる。
受け取った通学用ヘルメットを、望は思い切り空中を舞うおじさんの頭上からガツンと落とし、床に抑えた。
「やった!」
みちるが声を上げた。妖精を捕まえて嬉しい、というよりは部屋に現れた害虫を退治したときの歓喜であった。
「やめてー」
ヘルメットの中からくぐもった中年男性の声がする。
「あんた、何なの」
望が呼吸を整えながら聞く。
「……歯の妖精です」
「エーン」
もう、がっかりしすぎて、みちるが泣き出した。
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