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「社長から聞いたよ。あれからすぐに引っ越し先のリストから2軒に絞り込んでくれたって」
「はい、最終判断は清美さんにお任せしました」
「ありがとな」
進藤さんは嬉しそうに私の頭を撫でる。
私はその手の温かさが心地よくてくふんっと笑う。
「どういたしまして」
「今夜は新しい部屋に帰ろう」
私は耳を疑う。「え?」
「もう引っ越しは終わっている」
もう?
物件情報を見せられて清美さんの部屋に泊まったのか5日前。清美さんと相談しながら絞り込みをしたのが3日前。
それでもうすでに引っ越しまで終わってるとは。どれだけ手回しがいいんだ。
「今回の物件は事務所名義で社長が手配したんだ。でもまたすぐに引っ越しするから」
「また引っ越しですか?」
どういうこと?
「そこには長く住むつもりはないってこと?」
「ああ。そこは仮の住まい。この先長く住むならもっとゆっくり時間をかけて一緒に探したいからな」
そう言って進藤さんは意味ありげに口角を少し上げる。
そっか。
そうだよね、本来ならもっとゆっくり探したいはずだ。
それにしても、もう引っ越しまで終わってるとは。
でも、あの部屋には少しだけど、私の荷物もあったはず。
「果菜が不安だろうから今度の住まいは引っ越し前にも引っ越し後にも盗聴器やカメラの類がないかも調べてくれてあるらしいし、引っ越し業者も確かなところらしいから安心していい」
まさか、私が不安にならないようにそんな事まで気を遣ってくれたとは。
「ごめんなさい。大変でしたよね」
「いや、社長が率先して動いていたから俺は報告受けただけ。果菜のことずいぶん気に入ったらしいな」
「え、じゃあ清美さんにお礼を言わなくちゃですね」
うわっ、清美さんってすごく忙しい人なのに私ったらどこまでお世話をかけてしまっているんだろう。
「ああ、新しい部屋を見たら連絡しようか」
「いえいえ、今すぐ連絡します。ちょっとお店の外で電話してきますね」
バッグを持って立ち上がろうとした私の左手を進藤さんはキュッと握ってきた。
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