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「果菜、待て。社長への連絡は後でいい」
どうして止めるのかと進藤さんを見ると少し困ったような不機嫌そうな表情を浮かべている。
「どうしました?」
「お前さ」
ん?
「俺と会うのは5日振りだろ。いや、それもあの日はすぐに社長に追い出されたからゆっくり会うのは3週間以上か?それなのにその態度?」
あれ?
「まさかの清美さんにやきもちですか?」
冗談めかして少し笑う。
「まあな」
進藤さんはスマホを取り出して操作すると、それを私に見せた。
写真だ。
ん?
これって!?
一気に頬が熱くなり「削除しますっ」と画面に触れようとしたらサッとスマホを取り上げられてしまった。
それは清美さんの部屋着を借りてぐっすり眠り込んでいる私の寝顔。
酔って寝ている私の頬に頬をくっつけた清美さんがピースサインをして笑っていた。
「まだまだあるぞ」
「うわっ」
それはラグにごろごろと転がる二人で空けたワインボトルの空き瓶。
それだけじゃない、後日分まである。
清美さんの膝枕で眠る私、酔った私が清美さんに抱き付いているところ…全て醜態だ。
「社長のヤツ面白がって自撮りしておいて翌日九州にいる俺に送り付けて楽しんでたんだ」
「・・・消してください・・・」
「果菜サンもずいぶんとお楽しみだったみたいだし?」
ニヤニヤと意地悪な顔をして私を見下ろす。
「あー、ええ。その、お高いワインは初めて飲んだし。おつまみも美味しくてですね、えーっと」
「俺を追い出しておいて?」
「ううっ。その・・・ごめんなさい」
私はテーブルにおでこが付きそうなほど頭を下げる。
あの日、確かに進藤さんを避けた挙句に調子に乗って飲みすぎた。
ははっと私の頭の上で笑う声に顔を上げると進藤さんは楽しそうに笑っている。
「怒ってないさ。だから謝らなくていい」
私の頭をクシャっと撫でて私の頬に手を伸ばしてきた。
それからゆっくり頬から首すじに手を這わす。
「お前の葛藤に気が付いてやれなくて悪かったな」
私の目を真っ直ぐに見ながらはっきりとそう言った。
驚いて瞬きを忘れるほど目を見開いてしまう。
「清美さんから聞いたんですか?」
「いや、あの日社長に追い出されてからここに来たんだ。よく果菜が一人で座ってた席で俺1人で飲んでて気が付いた。今まで俺は果菜が何でも受け入れてくれていたことに甘えすぎていたんだな。悪かった。これからはもっと自己主張してくれ。俺がわかるように」
「進藤さんはいつも私のこと考えていてくれていたじゃないですか」
そんなこと言われたら私の方が困ってしまう。私こそ進藤さんに自分の価値観を押し付けようとしていたのだから。
「ごめんなさい。勝手にすねて一人でうじうじして」
私はまた頭を下げる。
「果菜…」
「実はね、」
私は何か言いかけた進藤さんを遮る。
「清美さんが進藤さんのいない間にイベントの動画を送ってくれたんですよ」
「あー、お前あれ見たのか」
照れくさそうに耳の後ろをガシガシと掻いて私から視線を外してしまう。
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