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「はい。見ちゃいました。それと、一昨日の九州のイベントのも」
「は?それも見たのか。お前、いつもそういうの見ないだろ」
驚いたらしく少しのけぞるように背中をそらしている。
「清美さんもうちの美乃梨さんも見た方がいいって言うから」
私はニコッとほほ笑んだ。
「余分なことを」
チッと舌打ちして私から顔をそむけてしまう。どうやら照れているらしい。
そんな仕草をちょっと可愛いと思ってしまう。
一昨日の九州のイベントの動画。
どうやらあれから進藤さんはイベントの度にファンや司会者からずっと私のことをいじられているらしい。
美乃梨さんに「照れるタカトを見てファンのほとんどが果菜さんのことを好意的に受け取っているから大丈夫ですよ」と言われたのだ。
ニコニコしていると
「果菜、ずいぶんと余裕になったな」
と気を取り直した進藤さんとばっちり目が合った。
余裕?
余裕ってわけじゃないけど、覚悟が決まったんです。
進藤さんの長くて少し骨ばった指が私の顔に伸びてきて顎に触れる。
「うちの姫は結構強気で意固地で扱いが難しくていつも振り回されるけど・・・誰よりもかわいいな」
フッと目の前に進藤さんの顔が近づいたと思ったら一瞬唇に触れて離れていった。
何をされたのか気が付いて顔から火が出そうになる。
「し、進藤さんっ」
声を殺してで叫んでしまう。
こんな所でキスだなんて誰かに見られたら。怖くて周りを見まわすこともできないで両手を頬に当ててうつむいた。
隣からクックと笑う声がする。
「大丈夫だよ。誰も気が付いてないって。たとえ、気が付かれててももう秘密の付き合いじゃないんだし、気にするな」
そんなこと言われても。
「あれだけ、イベントでお前とのこといじられてるんだ。『LARGOのタカト、恋人の月の姫を溺愛』って週刊誌にも出るらしいぞ」
んん?
「マスコミもお前のこと、本名明かすわけにはいかないし「月の姫」は苦肉の策なんだろ」
んんん?
「それってまた週刊誌に載るって話ですか?」
「うん、そうだな。今度はかなり有名なやつ」
私は目を丸くする。
「だからな、今度もこっちから手を打つことにした。男性誌と女性誌のインタビューを受けようと思う。ゴシップ週刊誌みたいなものじゃない。いいか?」
それは、だって、いいも、悪いもない。進藤さんの仕事に関わることだし、私は何があっても進藤さんの隣にいようと決めた。進藤さんの決定に従うしかない。
それにきっと彼は私の嫌がることはしない。
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