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「全て進藤さんにお任せします」
真っ直ぐ進藤さんの目を見返して、それから微笑んで見せた。
「引き返せないぞ」
「はい」
もちろん、もう引き返すつもりはないですよ・・・私は。
「進藤さんはいいんですか?」
改めて聞いてみる。
そういえば、いつも私のことばかり。進藤さんは引き返せなくなっていいんだろうか?
「もちろん。もともと俺は初めから引き返す気なんてこれっぽっちもないけど。信じられない?」
「うーん、どうなんでしょう。信じてるというよりは信じたいって感じかな」
進藤さんは呆れたような顔をした後「わかった」と私の頭をポンとする。
「じゃ、俺の本気を見せるとするか。早速”仮の新居”に行くぞ」
グラスに残ったウイスキーを飲み干して立ち上がった。
「おっと、果菜はもう少しここにいてくれ」
一緒に立ち上がろうとした私の肩を軽く押さえて押しとどめる。
「どうして?」
「いいから。スマホを出しておけ。俺から電話があったらお店を出て来て欲しいんだ。いいか?わかったか?」
そんな事をする理由がよくわからないけど、わかったと頷くと、進藤さんはにこりといつもよりきれいな笑顔を見せて
「じゃあ、あとで」と出て行ってしまった。
彼の後ろ姿を見送る。
どうしたんだろう。私と一緒にお店を出てはいけない事情があるんだろうか。
週刊誌記者が張っているとかファンの子に見つかったとか?
でも、彼がさっき言ったように今はもう隠れる必要もない。
理由はわからないけれど、とにかく今は進藤さんに従うしかない。
夜景をじっと見つめていると、5分もしないうちにスマホが震える。
進藤さんからの着信。
スマホを握りしめ素早く立ち上がり、『Moderato』の出口に向かいカウンターにいるアツシさんに会釈をしてドアを出てからスマホをタップした。
「もしもし」
「果菜、店を出た?」
「ハイ。今出ました」
「じゃ、電話はこのままでエレベーターに乗って降りてきて」
「エレベーターに乗ればいいんですね?」
「そう」
「わかりましたけど、進藤さんはいまどこにいるんですか?」
「秘密」
秘密って・・・。
普段聞かないような子供っぽい言い方。
でも、スマホ越しに耳元で私の好きな彼の低音ヴォイスで囁やかれて私の心臓がドクンと跳ねた。
この人のこの声ってホントにセクシーで私の心臓に悪い。
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