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「俺さ、あの時お前が落ちてきた俺を受け止めてくれるんじゃないかって勘違いしそうになった。果菜は俺の事を見ていたわけじゃないのにな。
でも、あの時、お前なら俺の全部を受け入れてくれるんじゃないかって感じたんだ。そう直感で。今は俺も受け止めたい。果菜の全てを」
進藤さんは私の頬に両手を当てる。ダークブラウンの瞳が私の視線とぶつかる。
「果菜、結婚するぞ」
はっきりと、そしてしっかりと私に告げた。
結婚しようでも結婚してくれでもなく『結婚するぞ』
それは決定事項なんですね。
進藤さんらしくて思わず笑ってしまう。
「はい」
力強く返事をする。
彼の背中に回した自分の腕に力を入れ「大切にします。だから私のことをずっと好きでいてくださいね、貴斗さん」と彼の胸に顔をうずめると、
「お前のことを好きでなくなる日は来ない。大切にする。後悔させないから離れようと思うなよ」
と即答され嬉しくて涙がにじんでくる。
でも、頭をいつものようにポンっとされ「そろそろ限界かな」と囁かれた。
限界?
限界って何が?と聞こうと顔を上げようとすると「走るぞ」と私の右手を引っ張っていきなり進藤さんが走り出した。
ええっ!
足をもつれさせながら必死でついていく。
そして気が付いた。
ここ外だ。
進藤さんのことしか目に入らなくて、人目を気にせず彼とくっついてしまったことに気が付いた。
商業ビルのエントランスでラブシーンをしていたのがあのタカトだとわかってしまっただろうか。
周りには通りがかりのカップルらしき人たちが何組かいてこちらをちらちらと見ていた。
手を引かれて走りながら「もう!こんなとこで!進藤さんのばか、ばか、ばかっ!」と悪態をついたけど、進藤さんは笑うばかり。
「俺だなんてバレてないよ。きっと撮影かなんかだと思われただろうし、たとえバレても気にすることはないさ」
そんなはずないって。
少し走った先でつかまえたタクシーに乗り込んでも私が頬を膨らませていると
「そんなに怒るなよ。お前、好きな男との結婚が決まったんだろ」
と他人事のような言い方をされた。
他人事みたいに。
そんな言い方ひどい。私だけが好きみたいだ。
ジロリと睨むとフッと笑われる。
何で笑うのよと本気でムッとすると
「怒るなって。でも、怒った顔も可愛いと思われるなんてお前、相当愛されてるな」
と信じられない言葉が降ってきた。
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