月の姫

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怒った顔も可愛いとか 愛されてるとか 怒っていたのに一瞬で顔が熱くなってしまう。 「第三者的言い方をしないと、まだ外なのに俺の顔が緩みすぎるだろ」 つないだままの右手がぎゅっと握られた。 進藤さんの顔を見ると確かにいつもより柔らかい表情をしている。 「ふふっ、進藤さんも結婚が決まったんですか?」 他人事のように声をかけると進藤さんはふわっと笑った。 「そうなんだ。好きな女と結婚が決まって自分でも信じられないくらい浮かれてる」 あっさり返されて私の方がはずかしくなってしまった。 ホントにズルい。 「私も大好きな人と結婚することが決まって、いま雲の上を歩いてるようなんです。同じですね」 とびきりの笑顔でお返ししてやる。 「やられた」と俯き髪をくしゃくしゃっとかきむしる。 えへへ、一矢報いたかな?と調子に乗っていたら「果菜、覚えてろよ」と黒さ満点の微笑みが返ってきて背筋に冷たいものが流れるような何やら嫌な予感がする。 「明日の朝日はいつもより眩しいぞ」 耳元で囁かれ全身がかぁっと熱くなる。多分顔は真っ赤だ。 朝日がいつもより眩しいって。 それっていつぞやの寝かせてもらえなかった日の朝に私が言った言葉。 睡眠不足の目に太陽の光が眩しくてくらくらした。睡眠不足の理由はもちろん、進藤さん。 ええっと。それ今夜も寝かせてもらえないって話なんだろうな。 ・・・失敗した。 私みたいないろいろ経験値の低い女が進藤さんに対抗しようだなんて100年早かった。 それでも、素直に負けを認めるのが悔しくて、プイっと窓の方を向いた。 隣からはくくっと小さな低い笑い声。 つながれたままの右手。 ビルの谷間に見え隠れするスーパームーン。 タクシーのラジオから流れてくるのはLARGOの新曲。 お気に入りのあの仕事部屋が無くなっても、私は十分に幸せを感じている。 あの部屋が幸せの象徴だと思っていたけど、今は彼と過ごす時間と場所すべてで幸せを感じているのだからこれからは場所にこだわる必要はない。 心の中がどんどんと温かくなり窓を向いたまま頬を緩める。 「これから探す新居はきれいに月が見える部屋にしよう」 隣から私の大好きな声が聞こえる。 「ありがと、貴斗。大好き」 振り返りとびきりの笑顔で大好きな人を見つめると、彼はちょっとだけ驚いたような表情をしたあとで、 優しく「月の姫と王様の部屋だからな」と笑った。 ~Fin~
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