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「寝てました」
「やだ、隼人さまのドラマ観ないで寝るなんて!まだ若いのに早寝だわねぇ」
ケラケラ笑う能天気な美和の声に苦笑しつつ「このヒマ人が」と言ってやった。
これは嫌味じゃなくて”よかったね”という意味が入っている。
彼女は最近所謂ブラック企業から真っ当な会社に転職した。
それまで毎日終電だった帰宅時間が早くなり、仕事の後にジム通いしたり飲みに行くことができるようになったのだ。
ついこの間も退社後の時間の使い方がまだわからないって言っていた。前の会社はどんだけブラックだったんだって話。
「うちはさ、この時期忙しいのよ。わかるでしょ、インフルエンザシーズンなの、インフルエンザ。外来はいっぱいで忙しいんだよー」
「あ、そうだったね、えへ。ごめん、ごめん」
全然悪いって思ってないでしょ。ま、いいけど。こんな彼女には慣れてるし。
美和の悪びれない口調に苦笑いしながら「で、何。どうしたの」と聞いてみる。いつもはメール連絡してくる美和が電話なんて珍しい。
「たいした用じゃないんだけど」
「うん、何」
「今夜から始まった西隼人のドラマは主題歌もサイコーにいいっていう話と、私の結婚が決まったって報告」
・・・
えーっと。
・・・はて。
美和は今なんと?
「美和?」
「ん?」
「今、なんて言った?」
「果菜もう寝てたのにごめんね。あまりにドラマがよかったから興奮しちゃって。果菜まだ見てないんだよね?ちゃんと録画した?ストーリーもいいし、西さんは格好いいし、それに主題歌もいいの。私が持ってる西さんのイメージぴったり。もしかしてそんな私のために作ってくれた?みたいなーえへへっ」
「ちょっとーー」
「うん、まだ見てない果菜のために詳しくは言わないから大丈夫。早く観た方が良いよ。じゃないとどっかでネタバレしちゃう」
「そうじゃないでしょ。いったいどういう事よ」
「あ、ごめん。冗談よ。ヒロインの境遇が私に似てるからって私のために作るはずないもんね」
「冗談?なんだ、冗談か。びっくりするじゃない、悪い冗談はやめてよ。結婚だなんて」
やだ、美和ったら。
暇すぎて気の利いた冗談も言えなくなったとか。ふんっと鼻から笑いが漏れた。
「ううん、そっちは冗談じゃない」
は?
「わたし、結婚決まったんだよね」
はあああああああ~?!
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